昔はスルーされた発言でも、現代では大きな批判を浴びて“失言”と扱われることが増えています。では、政治家にとって「失言をしない」こと自体が一種の能力・戦略になっているのでしょうか。本記事では、政治コミュニケーションの変化、失言リスク、そして現代の政治家に求められる言葉の慎重さについて読み解きます。
なぜ昔は許された言葉が今は許されないのか?時代感覚の変化
社会の価値観・敏感性・言語感覚は絶えず変化しています。ある時期には当たり前とされた比喩表現・ジェンダー観・マイノリティ像が、現代では差別表現や偏見とされることが少なくありません。
さらに、ネットの発展・SNSによる拡散力・“炎上文化”の強化が、発言の受け止められ方を敏感かつ速く変えるようになりました。つまり、ちょっとした表現が大きく拡散して批判を呼ぶ“拡声器化”が起きやすくなったのです。
現代政治家が“言葉を失わない”術として備えているもの
いわば“失言回避能力”とも言えるスキルには、いくつかの要素があります。
- 言葉のフィルター・チェックプロセス:スタッフ・秘書による発言チェック、会見前のシミュレーション、発言草稿精査など。
- 抽象化・曖昧性戦略:あえて具体的な表現を避け、「趣旨としてこういう意図で…」という形で曖昧に伝える場合もあります。
- 謝罪・弁明戦略の使い分け:謝るか弁明するか、どのタイミングで、どの言葉で出すかの判断。謝罪が得票にマイナスになりうるケースも報告されています。[参照]
- 状況読解力と反応センス:過去の類似発言への批判反応を参照しつつ、言葉の強弱・使い方をその場に応じて柔軟に変える能力。
失言と謝罪:許される謝罪・許されにくい謝罪
ただ謝れば済むわけではありません。近年の研究では、謝罪の形式や内容、タイミングが世論の受け止め方を大きく左右することが分かっています。[参照]
たとえば、「もし気を害されたなら申し訳ない」といった“if謝罪(条件付き謝罪)”は非難をかわすための戦略として使われやすく、責任の所在を曖昧にする非謝罪謝罪(non-apology apology)と見なされることもあります。[参照]
変化する社会に政治家はどう対応できるか?
政治家が発言リスクを避けつつ支持を維持するには、次のような対応が求められます。
- 言葉選びや表現において、少なくとも時代の最小公約数ラインを意識する
- 批判が出た際には迅速・誠実な説明・謝罪姿勢を見せつつ、曖昧さや損害回避ばかりに頼らないこと
- 発言の“背景説明”を丁寧に行うことで、誤解を避ける工夫をすること
- 政策実行や行動で信頼を裏付ける姿勢を持つこと。言葉だけで信頼を得るのは難しくなっている
まとめ:失言を“しない”のは能力にも戦略にもなっている
昔は許された発言も、現代ではコンテクスト・価値観変化・情報拡散力によって「失言」と見なされうる時代です。こうした変化の中で、政治家にとって“失言をしない”ことは、単なる自制ではなく、情報統制・発言プロセス・言語戦略を包含する一種の能力・戦術と言えます。
ただし、失言回避だけでは政治としての信頼構築は不十分で、言葉の裏を伴う政策・行動の信頼性がより一層問われる時代になっています。
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