三島由紀夫はその著作や講演を通じて、日本の戦後の法制度や社会状況に対する深い懸念を表明しました。特に、彼は憲法9条や戦後のヤミ食糧取締り法を例に挙げ、「完全に遵法することの不可能な成文法の存在は道義的退廃を引き起こす」と述べています。この考え方を理解するためには、まず彼の法と道徳に対する独自の視点を知る必要があります。
1. 三島由紀夫の法と道徳に対する見解
三島由紀夫は、戦後の日本における法律と道徳が乖離していることに強い不安を感じていました。彼の見解によれば、成文法は時として現実の社会の倫理や道徳に合致しない場合があり、その結果として「遵法」が無理なくなり、社会全体が道義的な退廃に向かうという考えです。成文法が完全に守られないとき、法律の意味が希薄になり、人々は法を尊重しなくなり、道徳も損なわれると三島は警告していたのです。
この考えは、特に戦後の日本において、戦前の倫理観や日本独自の価値観が失われつつあることへの批判とも解釈できます。彼にとって、成文法は社会の倫理や道徳と密接に結びつくべきものであり、法がその役割を果たせない場合、それは社会の根本的な問題であると考えたのです。
2. 憲法9条とヤミ食糧取締り法
三島が具体例として挙げた「憲法9条」や「ヤミ食糧取締り法」は、いずれも戦後日本の特殊な歴史的背景から生まれた法案です。憲法9条は、戦争の放棄を明記していますが、三島にとってはこれが現実の日本の軍事的自衛を制限し、国家としての自立を妨げるものとして捉えられていました。
また、ヤミ食糧取締り法は、戦後の食糧不足を補うために設けられた法ですが、これが強制力を持って施行される中で、多くの不正や倫理的に疑問視される行為を生じさせました。三島は、このような法が社会の道徳を崩壊させる原因であると感じ、成文法が従わなければならない倫理的な枠組みを欠いていることを問題視したのです。
3. 三島由紀夫の「道義的退廃」の警告
三島由紀夫が指摘する「道義的退廃」は、単に社会が法を守らなくなるだけではなく、倫理的な価値観が無視されることから生じる深刻な問題です。法を守ることが困難である場合、社会全体が「遵法」という概念に対する信頼を失い、結果として個々人の行動や社会全体の倫理観に悪影響を与えます。
三島はこの警告を通じて、法と道徳が一体でなければならないことを強調しました。彼にとって、法は単なる規範ではなく、倫理や道徳と密接に関連しているものであり、その欠如が社会に与える影響を深刻に捉えていたのです。
4. まとめ
三島由紀夫の「成文法に対する批判」と「道義的退廃」に対する警告は、戦後日本の法体系と社会の倫理観に対する彼の深い懸念を表しています。彼は、法が道徳と一致しないとき、社会に不安定さと退廃をもたらすと警告しました。現在もこの問題は重要なテーマとして考えられ、法と道徳の関係について再評価が必要であることを教えてくれます。
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