産業用小規模野立て太陽光発電所(例えば約49.5 kWクラス)を運用するにあたり、「パワーコンディショナ(以下“パワコン”)は何年経過したら交換しなければならないのか」「10年保証付きだから10年までは安心か」「10年以上経過して一部故障しても行政から指摘を受けないか」など、運用者として気になる点が出てきます。この記事では制度・法令・実務的目安を整理し、チェックすべきポイントをご紹介します。
まず法令・制度上の「交換義務」はあるか?
重要なポイントは、現時点で「〇年経過したら必ずパワコンを交換しなければならない」という明確な義務規定は、国内制度・法令上に定められていません。
例えば、経済産業省(以下“経産省”)が公開する「太陽電池発電設備を設置する場合の手引き」には、設備全体を技術基準に適合させる義務が記されていますが、機器個別の交換時期を義務付けた条文はありません。([参照] 経産省:太陽電池発電設備を設置する場合の手引き)
一方で、設備の保守・点検、維持管理に関する制度は整備されており、例えば改正FIT法に基づく保守点検義務や、50 kW以上の設備では電気事業法上の一般用電気工作物として定期点検が求められています。([参照] 太陽光発電のメンテナンスが義務化!内容や費用・頻度を解説)
パワコンの寿命・交換目安と保証を考える
法令で「交換義務」が規定されていなくとも、実務上はパワコンの寿命・保証期間をもとに「交換時期の目安」が整理されています。
たとえば、パワコンの寿命については「一般に10〜15年が交換の目安」とされ、設置環境や機器仕様・運転状況によって劣化が早く進むケースもあります。([参照] パワコンの寿命は何年?交換時期と費用の目安を徹底解説)
また、保証に関しては「無償5〜10年保証が一般的」であり、有償延長保証を付けるメーカーも存在します。([参照] パワコンのメーカー保証について)
つまり、保証期間が経過した時点で「故障リスクが高まる」「発電量低下や修理・交換コストが発生しやすくなる」と認識する必要があります。
産業用49.5 kWクラス設備に特有の留意点
低圧50 kW未満クラス(いわゆる“50 kWの壁”手前)では、制度・手続き・連系条件などが少し異なります。([参照] 10kW以上太陽光発電「50kWの壁」で変わる手続きと管理コスト)
このクラスでは、パワコン交換時に出力の変更を伴わなければ、経産省への変更認定申請が不要な場合もあります。([参照] パワコンメーカーを変更することは可能でしょうか?)
しかし、以下のような点に注意が必要です。
- 再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)期間中であれば、売電契約や設備認定内容に沿った運用が求められます。
- パワコン交換に伴い出力が増加・変更される場合、変更届出や認定変更が必要となる可能性があります。
- 設備全体の保守・点検義務(発電量低下・安全性確保等)は継続しており、パワコン単体の故障放置は設備全体の運用リスクを高めます。
「10年以上経過しても1台だけ壊れたら交換」という運用は許されるか?
運用者として気になるのが、「多数あるパワコンのうち1台が壊れるまで交換せず放置しても問題ないか」という問いです。
この答えとしては、「法令上そのスタンスを明確に禁止する条文はない」ものの、「運用上リスクが高く、第三者(系統運用者・売電先電力会社・認定機関)から安全・性能・維持管理の観点で指摘を受ける可能性がある」と理解すべきです。
具体的には。
- 設備の「出力低下」「異常停止」「安全系統のトリップ頻発」などが起きていれば、点検・修理・交換義務が実質的に発生することがあります。
- 低圧50 kW未満であっても、保守点検・維持管理の観点から、設備全体の適正運用が求められます。([参照] 太陽光発電の点検義務・メンテナンス義務を解説)
- 売電契約や設備認定契約において、発電量・設備性能の維持を要求されているケースもあり、長期未交換が影響する可能性があります。
つまり、「一台が壊れるまで放置」する選択肢は、コスト低減の観点では理解できるものの、実務リスク(収益低下・設備停止・売電停止・保険・保証適用外など)を伴うと認識してください。
運用者として今すぐすべきチェックリスト
49.5 kWクラス発電所を運用している場合、以下のようなチェックが重要です。
- パワコンの設置からの経過年数を把握(10年・15年経過の装置有無)
- 保証期間・延長保証の有無を確認(無償10年保証・有償延長など)
- 直近の発電量推移・異常停止履歴・エラーログの確認
- パワコン交換(または修理)を行った場合の費用・施工業者・影響範囲を見積もる
- 出力増加・過積載・系統連系条件変更等、変更要件が生じるかメーカー・電力会社・系統運用会社に相談
- 点検・保守契約・記録保存を継続し、設備維持管理を実践する
これらを実施することで「交換義務が明文化されていないから放置可能」と誤解せず、実務的な安心運用が可能になります。
まとめ
低圧49.5 kW程度の産業用野立て太陽光発電所において、パワーコンディショナを「何年経過したら必ず交換」という法的義務は存在しません。しかし、実務上は10〜15年を目安に交換を検討すべきとされており、保証期間や故障リスク・発電量低下などを踏まえた運用判断が重要です。
また、1台だけ壊れた段階まで放置する戦略は、コスト面で理解できるものの、設備維持・売電契約・保守点検義務の観点から十分なリスクを伴います。運用者としては、早期点検・数年ごとの機器評価・交換準備を進めることが推奨されます。
ご自身の発電所の機器・契約状況・点検記録を今一度確認し、必要なら専門業者への相談をお勧めします。


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