凶悪犯罪を起こした人間を刑務所ではなく遠く離れた島などで“サバイバル収容”する──一見、刑務所のような“慣れ”を防ぎ、厳罰かつ隔絶された環境で更生の可能性を抑えるという発想は、過激ながら一部で語られがちです。本稿では、この考え方の問題点と科学的・実証的な知見から見た“刑務所政策の功罪”、そして現実的かつ効果的とされる更生・再犯防止のアプローチを紹介します。
なぜ「島流し刑」に惹かれるのか ― 刑務所制度への不信
質問者が感じるように、刑務所では「たとえ自由が制限されても、一定の安全・管理された環境」に慣れてしまい、「自由が戻れば再び犯罪に走るのでは」と懸念する声は少なくありません。
刑務所は基本的に“収容+監視+矯正プログラム”の場ですが、刑務所内部の慣れや、集団的な影響(他受刑者との関係など)が、かえって再犯の土壌になるのでは、という疑問もあります。そのため、「より隔絶された過酷で管理された場所の方が“慣れ”にくいのでは」という発想になるのでしょう。
しかし実証研究は「過酷な収容は再犯を減らさない」と示している
たとえば、アメリカなどで行われてきた研究では、いわゆる独房監禁(ソリタリーコンファインメント)などの過酷な隔離環境は、出所後の再犯率をむしろ高める可能性があると報告されています。:contentReference[oaicite:0]{index=0}
また、過酷な収容条件(厳格なセキュリティレベルなど)と再犯率に関する調査では、「重罰や厳しい刑務所環境が、出所後の犯罪を抑制する」という仮説を支持する証拠は乏しく、むしろ逆の傾向も示されています。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
なぜ「隔離」や「島流し」が再犯防止になりにくいか ― 心理・社会的な観点から
隔離や過酷な環境は、受刑者の精神・身体に深刻な悪影響を与えることが多数の研究で示されています。ソリタリー監獄では、社会との断絶、感覚や刺激の欠如、長時間の孤独といった要素が、心身の健康を損ねるリスクがあります。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
また、そもそも収監の目的は「再犯防止」「社会復帰可能な人間に改善すること」ですが、過酷な隔離や“島流し”的な処遇は、心理社会的な回復やリハビリの機会を奪ってしまい、むしろ再犯リスクを上げるという指摘があります。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
代替として注目される ― 科学的に支持される「更生・再犯防止プログラム」
たとえば、アメリカ連邦矯正局などでは、単に収監するだけでなく、出所後の社会復帰に備える教育プログラムや職業訓練、認知行動療法などを通じて再犯率を下げる取り組みを行っています。これにより、刑務所産業に参加した受刑者は再犯率が低く、出所後の就労率も高いという報告があります。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
また、現代の矯正理論では、ただ罰を与える “矯正モデル” から、回復と社会復帰を支える “リハビリテーション/再統合モデル” への転換が重要とされています。隔離や島流しではなく、「必要な支援と関係性の回復」が再犯防止につながる、という考え方です。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
「島流し刑」を現実的に導入する際の課題 ― 法制度・人道・コストの観点から
まず、こうした“遠隔収容/島流し刑”は、現行の多くの司法制度で認められていません。加えて、仮に実施したとしても、適切な監視・医療・生活保障・最低限の人権をどう守るかは極めて難しい問題です。
さらに、隔離施設の建設や運営、移送のコスト・リスク、受刑者の健康管理や社会復帰支援など、刑務所以上に手間や費用、社会的な負担がかかる可能性があります。そして何より、「過酷さで犯罪を抑える」前提そのものが、実証的な支持をほとんど得られていないのです。
まとめ ― 過酷な隔離よりも、“支援と更生”を重視する刑務所・矯正制度のほうが現実的で効果的
・「刑務所より島流し/過酷な隔離の方が再犯防止に効果ある」は、社会心理学・犯罪学の実証研究の観点からは支持されていません。
・むしろ、孤立・過酷環境は精神的・身体的害を生み、再犯リスクを上げる可能性があると指摘されています。
・現在、国際的にも、刑罰の目的を「罰と隔離」から「更生・社会復帰支援」へとシフトする動きが主流であり、教育・訓練・心理ケアなどを伴う矯正制度の方が、犯罪抑止と再犯防止の観点で合理的です。
よって、仮に“島流し刑”のような制度が実現可能でも、それが「安全で効果のある再犯防止策」となる保証は非常に乏しく、むしろ問題や弊害のほうが多いというのが、現代の知見から見た結論です。


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