駅や電車内での盗撮事件が報道されると、「実際にはどれほど多くの盗撮が起きているのか」「日常的に利用している駅にも、過去に盗撮をした人が多数いるのではないか」と疑問を持つことがあります。2024年(令和6年)は性的姿態撮影等処罰法による事件も多数認知されており、盗撮が決して珍しい犯罪ではないことは統計からも分かります。
しかし、年間の検挙件数や認知件数から、特定の駅を1日に通過する「盗撮をする人・過去に盗撮歴のある人」の人数を推計することはできません。事件の「件数」と「人数」、全国統計と特定駅の通過人数、検挙されていない犯罪と未検挙の犯人は、それぞれ別の数字だからです。
この記事では、警察庁が公表している2024年の統計を基礎に、盗撮の件数をどう読み取ればよいのか、駅を通る盗撮関係者の人数を推定できるのか、そして統計に現れない「暗数」をどのように考えるべきなのかを整理します。
- 2024年の盗撮事犯は検挙ベースで8,000件を超えている
- 8,000件の事件があっても8,000人の犯人がいるとは限らない
- 2024年の盗撮は駅構内でも多数検挙されている
- 「ある駅を1日に100人の盗撮関係者が通る」は統計から判断できない
- 乗降客数が多い駅でも単純な割り算はできない
- 過去の研究では盗撮型性犯罪の再犯も確認されている
- 検挙されていない盗撮は存在するが「実際は何十倍」とは断定できない
- 「被害件数の暗数」と「犯人の人数の暗数」は別問題
- 前歴・前科のある人まで含めるとさらに推計が難しくなる
- 「穴場の駅」という表現にも注意が必要
- 盗撮統計を見るときに確認したい4つの数字
- まとめ:盗撮は駅でも現実に発生しているが「1日100人」は既存統計では証明できない
2024年の盗撮事犯は検挙ベースで8,000件を超えている
警察庁が公表した盗撮事犯に関する資料によると、2024年(令和6年)の盗撮事犯の検挙件数は、性的姿態等撮影罪の「ひそかに撮影」に該当するものが6,310件、迷惑行為防止条例違反等が2,013件で、合計すると8,323件となります。前年以前とは適用される法律の構成が変化しているため、単純な前年比較には注意が必要です。[参照:警察庁「盗撮事犯の現状」]
また、犯罪被害者白書に掲載された2024年の犯罪統計では、「性的姿態撮影等処罰法」違反全体の認知件数が8,436件とされています。こちらは盗撮だけに限定した8,323件とは集計対象が異なるため、数字を混同しないことが重要です。[参照:警察庁 令和7年版犯罪被害者白書]
つまり、「2024年は8,000件台」という理解は大きな方向性としては合っていますが、何を数えた8,000件なのかまで確認する必要があります。犯罪統計では、認知件数、検挙件数、検挙人員、被害者数などがそれぞれ異なる指標として扱われています。
8,000件の事件があっても8,000人の犯人がいるとは限らない
盗撮の規模を考えるうえで特に重要なのが、「検挙件数」と「検挙人員」は同じではないという点です。一人が複数回の盗撮を行えば、事件は複数件でも犯人は一人というケースが生じます。
反対に、一つの事件について複数人が関与するケースも理論上はあります。そのため事件数をそのまま「盗撮をする人の人数」に置き換えることはできません。
例えば、仮にある地域で年間100件の盗撮事件があったとしても、それだけでは100人がそれぞれ1回ずつ行ったのか、少数の人物が繰り返していたのかは分かりません。「事件の発生回数」と「その行為をする人口」を分けて考える必要があります。
2024年の盗撮は駅構内でも多数検挙されている
警察庁によると、2024年に性的姿態等撮影罪で検挙された盗撮事案の発生場所では、商業施設が2,275件で36%、駅構内が1,369件で22%となっています。乗物内は285件で4%でした。[参照:警察庁「盗撮事犯の現状」]
駅構内が全体の約2割を占めることから、駅が盗撮対策上重要な場所であることは確かです。一方で、この1,369件は全国の駅構内を合計した数字であり、一つの駅で発生した件数ではありません。
さらに「その駅で盗撮事件が発生した人数」と「その駅を単に通過したことがある盗撮前歴・前科のある人数」も全く異なります。後者については、通常の犯罪統計から把握することができません。
「ある駅を1日に100人の盗撮関係者が通る」は統計から判断できない
仮に「盗撮関係者」を、当日に盗撮する人物だけでなく、過去に盗撮で検挙された人、前歴・前科のある人まで含む概念とすると、その人数を駅単位で算出するためには非常に多くのデータが必要になります。
具体的には、全国に現在何人の盗撮前歴・前科を持つ人がいるのか、そのうち現在も日本国内で生活している人が何人なのか、それぞれがどの交通機関を利用しているのか、同じ人物が一日に複数駅を通過した場合をどう数えるのか、といった情報が必要です。
警察庁の公表統計には、特定駅について「1日に盗撮前歴・前科のある人物が何人通過したか」というデータはありません。そのため、「100人くらい通っていてもおかしくない」「100人も通ることはない」のどちらも、現在公開されている全国統計だけでは実証できません。
乗降客数が多い駅でも単純な割り算はできない
「1日の利用者が10万人いる駅なら、その中に盗撮経験者が何人いるか計算できるのでは」と考えることもできます。しかし、全国の検挙件数を人口で割った割合を駅利用者数へ掛ける方法では、信頼できる推計にはなりません。
第一に、検挙件数は「その年に盗撮経験のある人の人数」ではありません。第二に、駅利用者には同じ人物が繰り返し含まれます。第三に、盗撮事件には再犯者も存在するため、事件数と犯人の母集団が一致しません。
さらに、駅によって利用者の年齢構成、通勤・通学利用の割合、周辺施設、時間帯なども異なります。全国平均の数字を一つの駅へ機械的に当てはめると、大きな誤差が生じる可能性があります。
過去の研究では盗撮型性犯罪の再犯も確認されている
盗撮では同じ人物による反復を考慮する必要があります。法務省の平成27年版犯罪白書では、性犯罪者に関する特別調査の「盗撮型」について、調査対象者の再犯率が36.4%だったと報告されています。また、複数回の刑事処分を受けながら条例違反を繰り返している者が多いことも指摘されています。[参照:法務省 平成27年版犯罪白書]
ただし、この36.4%を「盗撮をした人は36.4%の確率でまた盗撮する」と一般化するのも適切ではありません。特定の調査対象者を一定の条件で追跡した結果であり、日本にいるすべての盗撮経験者へそのまま適用できる数字ではないためです。
重要なのは、同一人物が繰り返し事件を起こすケースが現実に存在するという点です。したがって、年間8,000件以上の検挙があることから「毎年8,000人以上の新しい盗撮犯が生まれている」と解釈することもできません。
検挙されていない盗撮は存在するが「実際は何十倍」とは断定できない
犯罪統計を考える際には「暗数」という概念があります。暗数とは、実際には犯罪被害が発生していても、警察に届けられなかったり認知されなかったりして、公式な犯罪統計へ現れない部分です。
盗撮は、被害者自身が撮影されたことに気付かないケースも考えられる犯罪です。そのため、検挙された事件だけが現実に発生した盗撮のすべてではないと考えるのは自然です。法務省も犯罪白書で犯罪被害の暗数について調査・分析しています。[参照:法務省 令和7年版犯罪白書]
しかし、「検挙件数の10倍」「数十倍」「100倍」と具体的な倍率を設定するには、その倍率を裏付ける調査が必要です。単に「発覚しにくい犯罪だから」という理由だけで任意の倍率を掛けることは、統計的な推計にはなりません。
「被害件数の暗数」と「犯人の人数の暗数」は別問題
ここは特に混同されやすいポイントです。仮に調査によって「実際の盗撮被害は警察統計よりかなり多い」と分かったとしても、それだけでは犯人の人数が同じ倍率で増えることにはなりません。
例えば、統計に現れていない盗撮が100件存在すると仮定しても、100人が1件ずつ行った可能性もあれば、10人がそれぞれ10件行った可能性もあります。極端な例では、少数の常習者によって多数の事件が発生することも考えられます。
したがって「実際の被害件数は検挙件数より多い」ことと、「盗撮をする人物が社会に非常に多数いる」ことは分けて検証しなければなりません。
前歴・前科のある人まで含めるとさらに推計が難しくなる
「過去に盗撮をしたことがある人」まで対象にすると、単年度の犯罪統計からの推計はさらに難しくなります。過去何十年分を対象にするかによって母集団が変化するからです。
また、「前歴」と「前科」も同じ意味ではありません。一般に前科は有罪判決を受けた経歴を指し、前歴は捜査機関による捜査対象となった経歴などを指す言葉として使われます。逮捕・検挙されたから必ず前科になるわけではありません。
さらに、性的姿態撮影等処罰法は2023年7月に施行された法律です。それ以前の盗撮は、行為や場所などに応じて各都道府県の迷惑防止条例などによって処罰されていました。そのため長期間の統計を比較するときには法制度の変更も考慮する必要があります。
「穴場の駅」という表現にも注意が必要
利用者の少ない駅や監視の少なそうな場所を「盗撮の穴場」と捉えることは適切ではありません。警察統計から特定の駅が盗撮に向いている、あるいは盗撮犯が集まりやすい場所だと判断できるものではないためです。
盗撮防止という観点では、駅の規模だけでなく、階段・エスカレーターなどの環境、混雑状況、駅員や警備員による巡回、防犯カメラ、利用者への注意喚起など、さまざまな要素が関係します。
警察庁も痴漢・盗撮対策に関する啓発や統計資料を公開しています。被害や不審な行為を実際に確認した場合は、自分だけで相手を追跡したり取り押さえたりするより、駅員や警察へ相談することが安全です。[参照:警察庁 痴漢・盗撮事犯対策]
盗撮統計を見るときに確認したい4つの数字
盗撮に関するニュースや統計を見る場合は、「認知件数」「検挙件数」「検挙人員」「発生場所」を分けて確認すると誤解しにくくなります。
| 指標 | 意味 |
|---|---|
| 認知件数 | 警察が犯罪の発生を認知した件数 |
| 検挙件数 | 警察が検挙した事件の件数 |
| 検挙人員 | 検挙された人物の人数 |
| 発生場所 | 駅、商業施設、乗物内など事件が発生した場所の分類 |
特に「8,000件」という数字を見て「8,000人」と読み替えないことが重要です。さらに年間件数を365日で割った数字も、「毎日それだけの異なる人物が犯罪をしている」という意味にはなりません。
特定の駅について考える場合にも同様で、その駅の事件件数が分かったとしても、そこを日常的に通過する盗撮経験者の総人数まで分かるわけではありません。
まとめ:盗撮は駅でも現実に発生しているが「1日100人」は既存統計では証明できない
2024年の警察庁資料では、性的姿態等撮影罪の「ひそかに撮影」6,310件と迷惑行為防止条例違反等2,013件を合わせ、盗撮事犯の検挙件数は8,323件でした。また、性的姿態等撮影罪で検挙された盗撮事案のうち駅構内は1,369件で22%を占めています。駅が盗撮対策上無視できない場所であることは統計的にも確認できます。
一方、この数字から「特定の駅を1日に100人の盗撮犯や盗撮前歴・前科のある人が通過している」と推計することはできません。全国の事件数と特定駅の通過人数は異なる統計であり、同一人物による反復もあるためです。
また、警察に把握されていない盗撮という暗数が存在すると考えられても、その実数が検挙件数の何倍なのか、さらに未検挙者が何人いるのかは別途データがなければ分かりません。「盗撮の実数は統計より多い可能性がある」ということと、「ある駅に毎日100人規模の盗撮関係者がいる」ということの間には、大きな推論の飛躍があります。
犯罪統計を読む際には、件数の大きさだけから周囲にいる犯人の人数を想像するのではなく、何を数えた統計なのか、対象地域は全国なのか特定地域なのか、事件数なのか人員なのかを確認することが重要です。


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