台風や線状降水帯などによる大雨では、短時間のうちに道路冠水から住宅の床下浸水、さらに床上浸水へと状況が悪化することがあります。自宅への浸水が予想されるときは、家財を高い場所へ移したり、玄関などからの浸水を簡易的に防いだりすることで被害を小さくできる可能性があります。
ただし、最も重要なのは住宅を守ることではなく人の安全を確保することです。すでに避難が必要な段階になっている場合、土のうを積んだり荷物を運んだりするために避難を遅らせてはいけません。浸水対策はあくまで安全な時間が十分残っている段階で行うものと考えます。
ここでは、国土交通省や気象庁などが公表している防災情報を踏まえ、大雨による浸水が予想されるときに家庭でできる準備、簡易水防、家財の移動、避難を優先すべきタイミングについて整理します。
浸水対策より先に避難の必要性を判断する
大雨が予想されると、「できるだけ家を守ってから逃げたい」と考えがちです。しかし、浸水が始まってから屋外へ出ると、普段歩き慣れている道路でも危険な場所に変わります。
気象庁では洪水・浸水・土砂災害などの危険度を確認できる「キキクル」を提供しています。洪水キキクルで「危険(紫)」が表示された場合は危険な場所からの避難が必要とされる警戒レベル4相当であり、自治体から避難指示が発令されている場合には速やかな避難行動が必要です。[参照:気象庁 洪水キキクル]
警戒レベル5相当になると、すでに災害が発生・切迫している可能性が極めて高く、命の危険が迫った状況です。「レベル5になってから避難する」のではなく、危険な場所にいる人はレベル4までに避難することが基本です。
時間に余裕があるなら家財を高い場所へ移動する
まだ浸水しておらず、安全に作業できる時間が十分にある場合は、水に弱い物をできるだけ高い位置へ移しておきます。特に床に直接置いてある物は、数cm程度の浸水でも被害を受ける可能性があります。
例えば、重要書類、アルバム、パソコンなどの電子機器、充電器、衣類、薬、食品などを棚の上や2階へ移します。1階建ての場合でも、机や棚など安定した高い場所へ移動させるだけで被害を軽減できる場合があります。
大型家具や重量のある家電を無理に持ち上げる必要はありません。腰を痛めたり家具が転倒したりする危険があるため、短時間で安全に動かせる物から優先します。
玄関などには「水のう」で簡易的な浸水対策ができる
国土交通省は、浸水深が小さい場合に家庭にある物を利用して水の侵入を減らす「簡易水防」を紹介しています。代表的なのが、大きめのゴミ袋などへ水を入れて作る「水のう」です。[参照:国土交通省 水害ハザードマップ作成の手引き]
土のうを常備していない家庭でも、大きめの袋などを利用して水の侵入口となりそうな場所に並べる方法があります。玄関など低い開口部から少量の水が入り始める状況では、一定の浸水軽減効果を期待できます。
ただし水のうは本格的な防水設備ではありません。大量の水や強い水流を止められるものではなく、設置するために危険な屋外へ出ることも避ける必要があります。
板・土のう・プランターを利用する方法もある
国土交通省は家庭でできる簡易水防として、水のうのほか、プランターをつなげて水の侵入口に並べる方法や、長めの板と土のうを組み合わせて臨時の止水板とする方法も紹介しています。
例えば玄関前に丈夫な板を渡し、その板を土のうなどで支えることで簡易的な止水壁として利用できます。あらかじめ専用の止水板を設置できる住宅であれば、警報級の大雨が予想された段階で準備しておくと慌てずに済みます。
重要なのは「水が来てから作り始めない」ことです。冠水が始まった道路や側溝付近へ材料を取りに行く行為は危険なので、簡易水防は事前準備として行います。
排水口や側溝は大雨になる前に確認する
雨が激しくなる前で安全な段階なら、自宅周辺の排水経路も確認できます。国土交通省も、梅雨や台風期の前に家の周囲の排水溝が詰まっていないか確認することを自衛策として挙げています。
落ち葉やゴミなどで排水口が塞がれていると、雨水が流れにくくなる場合があります。日頃から清掃しておくことが有効です。
一方、大雨の最中に側溝を掃除するのは危険です。水で側溝との境目が見えなくなったり、急激に水位が上昇したりする可能性があるため、雨が強くなってから屋外作業を始めてはいけません。
車も早い段階なら高い場所へ移動できる
自宅の駐車場が低い土地にある場合、時間に十分な余裕がある段階で車を浸水想定区域外などの安全な場所へ移しておくことで、水没被害を避けられる可能性があります。
ただし、すでに道路冠水が始まってから車を移動させるのは危険です。水深は車内から判断しにくく、道路と水路の境界が分からなくなる場合もあります。
「車だけでも助けたい」と考えて避難開始を遅らせることも避けるべきです。車の移動はあくまで雨が強くなる前の予防策として考え、危険が迫っている場合は人の避難を優先します。
避難時には最低限必要な物をすぐ持ち出せるようにする
浸水が心配なときは、家財を守る作業と同時に非常用持ち出し品を準備します。スマートフォン、モバイルバッテリー、財布、身分証明書、常用薬、飲料水、必要最低限の衣類などを一つにまとめておけば、避難情報が出たときすぐ行動できます。
重要書類は防水性のある袋へ入れておくと安心です。またスマートフォンは避難情報や家族との連絡に必要になるため、早めに充電しておきます。
小さな子ども、高齢者、障害のある人、妊娠している人など避難に時間を要する人がいる家庭では、一般の人より早い段階から準備・避難することが重要です。
電気設備が浸水しそうな場合は感電にも注意する
住宅への浸水では家具や床だけでなく、電気設備への被害にも注意が必要です。コンセントや電気製品が水に浸かる可能性がある場合は、感電や漏電などの危険があります。
電気製品を移動できるのは、まだ床が乾いていて安全な段階までと考えます。すでに浸水している場所で、濡れた電気製品やコンセント、配線などに触れるのは避けてください。
また、浸水後の電気設備を自己判断ですぐ使用することも危険です。被災後は電力会社や電気工事の専門家などの案内に従い、安全を確認してから使用を再開します。
避難するときに家を完璧に守ろうとしない
避難直前になって「あれも2階へ運ぼう」「玄関にも水のうを追加しよう」と作業を続けてしまうと、避難のタイミングを逃す原因になります。
水害では状況が短時間で変化します。上流で降った雨によって、自宅周辺では雨が弱まっているのに河川の危険度が上昇することもあります。気象庁も、洪水キキクルでは上流地点の危険度を含めて確認するよう案内しています。[参照:気象庁 洪水キキクル]
「家を守る作業を途中で切り上げる」ことも重要な防災判断です。自治体から避難指示が出た場合や、自宅周辺の危険度が高まっている場合には、作業より避難を優先します。
すでに道路が冠水している場合は外へ出ること自体が危険になる
避難は早いほど選択肢が多くなります。しかし避難が遅れて周囲がすでに深く浸水している場合、指定避難所へ向かうため屋外へ出ることが、かえって危険になる場合があります。
道路が水で覆われると、マンホールや側溝、段差などが見えなくなります。河川の氾濫などで流れが強い場合は、歩いて移動すること自体が困難になります。
すでに安全な立退き避難ができないほど危険が迫っている場合は、無理に遠くの避難所を目指すのではなく、その時点で可能な範囲でより安全な場所へ移動して命を守る必要があります。気象庁では警戒レベル5相当を、災害が発生または切迫し、直ちに身の安全を確保する段階としています。[参照:気象庁 気象警報・注意報]
平常時にハザードマップを確認しておく
水害対策で非常に重要なのが、自宅がどの程度の浸水を想定されている場所なのか事前に知ることです。自治体のハザードマップなどを利用して、自宅周辺の洪水・内水氾濫・土砂災害などのリスクを確認します。
同時に、避難先までの経路も確認しておきます。普段利用している道路が低地やアンダーパスを通っている場合、大雨時には利用できない可能性があるため、複数の経路を考えておくと安心です。
気象庁のキキクルでは、大雨時に洪水・浸水害・土砂災害の危険度を地図上で確認できます。[参照:気象庁 キキクル] ハザードマップによる事前確認と、キキクルなどによるリアルタイムの情報確認を組み合わせることが重要です。
浸水前にできることを優先順位で整理する
大雨が近づいているときは、限られた時間の中で何をするか優先順位を決めておくと行動しやすくなります。
| 優先度 | 行動 | ポイント |
|---|---|---|
| 最優先 | 避難情報・危険度を確認 | 危険なら家の対策より避難を優先 |
| 高 | 家族の避難準備 | 高齢者など避難に時間がかかる人は早めに行動 |
| 高 | 非常用持ち出し品の準備 | スマホ、薬、身分証、飲料水などをまとめる |
| 中 | 重要品・家電を高所へ移動 | 安全に動かせる物だけにする |
| 中 | 水のう・土のう・止水板を設置 | 浸水開始前で安全な場合のみ |
| 事前 | 排水溝の清掃 | 大雨になる前の平常時に実施 |
この順番で考えると、「家を守るための作業に夢中になり、逃げ遅れる」という最も避けたい事態を防ぎやすくなります。
まとめ:浸水対策は「安全なうちに」、危険が迫ったら避難を最優先に
床下・床上浸水が予想される場合でも、まだ十分な時間があり安全に作業できる段階なら、家財や電子機器を高い場所へ移動する、水のう・土のう・止水板などで水の侵入を軽減する、非常用持ち出し品を準備するといった対策ができます。国土交通省も、水のうやプランター、板と土のうなどを利用した家庭での簡易水防を紹介しています。[参照:国土交通省]
一方、こうした方法は住宅への被害を完全に防ぐものではありません。特に河川氾濫など大規模な浸水が予想される場合、家庭の簡易水防だけで対応することはできません。
防災で最優先するのは「床上浸水を防ぐこと」ではなく「逃げ遅れないこと」です。危険な場所にいる場合は警戒レベル4までに避難することを基本とし、自治体の避難情報、気象庁の警報やキキクル、河川の水位情報などを確認しながら、まだ安全に移動できる段階で行動することが重要です。


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