巨大地震で銀行は倒壊・略奪されないのか?阪神・淡路大震災などの実例から見る銀行店舗・金庫・預金の災害対策

地震

銀行というと、分厚い金庫や厳重なセキュリティー設備を備えた「非常に頑丈な建物」というイメージがあります。しかし、防犯性能が高いことと、大地震に対して建物全体が安全であることは同じではありません。過去の大地震では、実際に金融機関の店舗が倒壊・損壊し、多数の店舗が営業できなくなった事例があります。

一方、銀行店舗が壊れたからといって、預金者のお金がその店舗の金庫から失われ、そのまま預金まで消えてしまうわけではありません。現在の銀行業務は預金記録や決済システムを含むネットワークとして運営されており、大規模災害を想定したバックアップや業務継続計画も重要な金融インフラ対策となっています。

また、震災時の犯罪についても「日本では災害時に略奪がまったく起こらない」と考えるのは正確ではありません。大規模な集団略奪が起こらなかった震災がある一方、閉鎖された金融機関やATMなどを狙った窃盗が確認された災害もあります。ここでは、津波による流失をいったん除き、主に地震の揺れによる銀行の被害とその後の金融機能について整理します。

銀行だから地震でも倒壊しない、とは限らない

銀行は現金や重要書類を扱うため、防犯設備については一般的な店舗とは異なる対策が施されています。しかし、建物そのものの耐震性能は、基本的には建築された年代、構造、設計、施工状態、その後の耐震改修などによって左右されます。

つまり、「銀行だから建物全体が金庫のように頑丈」という理解は適切ではありません。テナントビルの一角に入っている銀行店舗もありますし、古くから使われている独立店舗もあります。巨大地震では、銀行であっても建物や設備が被害を受けます。

実際、1995年の阪神・淡路大震災では金融機関も甚大な被害を受けました。内閣府の阪神・淡路大震災教訓情報資料集によると、銀行は最大450店舗が休業し、兵庫県内607店舗の75%に相当したとされています。オンライン機能にも障害が発生しました。[参照:内閣府 阪神・淡路大震災教訓情報資料集]

阪神・淡路大震災では金融機関の店舗が実際に倒壊した

銀行店舗の倒壊は仮定上の話ではありません。日本銀行神戸支店がまとめた阪神・淡路大震災の記録には、店舗が倒壊した金融機関14行庫に対して、日本銀行神戸支店が臨時窓口を提供したことが記録されています。

臨時窓口は1995年1月20日から2月3日まで設けられ、約3,000人が利用し、そのうち約半数が預金を引き出したとされています。払戻額は合計約15億円でした。[参照:日本銀行神戸支店 阪神・淡路大震災の記録]

つまり、巨大な直下地震では銀行の営業店舗そのものが使用不能になることがあります。しかし重要なのは、店舗が壊れることと銀行の金融機能や顧客の預金記録が消えることは別問題だという点です。

兵庫銀行では本店の倒壊という被害もあった

さらに具体的な事例として、旧兵庫銀行があります。財務省がまとめた金融行政史の資料では、1995年1月の阪神・淡路大震災により「本店が倒壊するなどの被害」が加わったことが記録されています。[参照:財務省 金融行政の歴史]

なお、兵庫銀行の経営破綻を単純に「地震で本店が倒壊したから破綻した」と理解するのは適切ではありません。同資料では、それ以前から資産価格下落や不良債権による損失拡大など深刻な経営問題を抱えていた経緯が説明されており、そこへ震災被害が加わったという位置付けです。

この事例からも分かるように、銀行の建物には物理的な災害リスクがあります。「銀行の建物なら巨大地震でも絶対に倒壊しない」というわけではありません。

金庫が頑丈でも銀行店舗全体の耐震性能とは別問題

銀行の金庫は、現金や重要物を盗難・火災などから守ることを目的とした設備です。しかし、金庫の防盗性能が高いことから、そのまま建物全体の耐震性能が高いとは判断できません。

例えば建物の柱、梁、外壁、天井、窓、配管、電気設備などが地震で損傷すれば、金庫室そのものが残っていても店舗営業はできなくなる可能性があります。停電や通信障害によってATMやオンライン端末が利用できなくなることもあります。

そのため銀行の災害対策では「金庫を頑丈にする」だけでは足りません。建物の安全確保に加えて、電力、通信、コンピューターシステム、人員、別拠点などを含めた総合的な対策が必要になります。

昭和に建てられた銀行はすべて旧耐震というわけではない

古い銀行建築について考える際には「昭和の建物」という区分だけでは判断できません。日本では1981年に建築基準法施行令の耐震基準が大きく改正され、一般にそれ以前の基準を旧耐震、以後を新耐震と呼びます。

したがって昭和時代に建設された建物でも、昭和56年以降のものは一律に旧耐震建築物というわけではありません。また、それ以前の建物であっても、耐震診断を受け、補強工事が実施されている場合があります。

反対に、外観が非常に重厚な石造風・コンクリート造の銀行だからという理由だけで、現在の耐震性能を判断することもできません。個々の建物については建築年代だけでなく、構造や改修履歴を確認する必要があります。

大地震で銀行が閉まること自体は珍しくない

阪神・淡路大震災では、地震当日に約450の銀行店舗が営業停止しました。国会の財務金融委員会でも、この数字が政府から説明されています。[参照:衆議院 財務金融委員会会議録]

営業停止の理由は建物の倒壊だけとは限りません。建物の損傷、停電、通信障害、交通網の寸断、職員が出勤できないこと、安全確認が終わっていないことなど、さまざまな要因があります。

銀行は社会に不可欠なインフラですが、利用者や職員の生命より窓口営業を優先するわけではありません。危険な店舗については一時的に閉鎖し、安全な別店舗、臨時窓口、ATMなどへ機能を振り分ける対応が取られます。

店舗が倒壊しても預金が消えるわけではない

現代の銀行預金は「自分が預けた紙幣が、そのまま支店の金庫に保管されている」という仕組みではありません。口座残高は銀行のシステム上の記録として管理されています。

例えば100万円を銀行へ預けたからといって、名前を書いた100万円分の紙幣が支店の金庫に保存され、それを後日返してもらうわけではありません。そのため、支店に保管されていた現金が物理的な被害を受けたとしても、それだけを理由に預金口座の100万円がなくなるという関係にはなりません。

金融庁の監督指針でも、大規模災害などに備えた業務継続計画(BCP)について、顧客データ等の安全対策やデータファイル・プログラムのバックアップなどが確認項目として挙げられています。[参照:金融庁 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針]

阪神・淡路大震災では金融システムそのものにも大きな影響が出た

店舗だけでなく、金融取引を支えるシステムにも地震の影響は及びます。日本銀行によれば、阪神・淡路大震災では神戸手形交換所が5営業日にわたって全面的な交換停止を余儀なくされました。

また、被災直後には被災地域にある金融機関の半分程度の店舗が営業できない状態だったと日本銀行が説明しています。一方、日本銀行神戸支店は現金供給を継続し、被災した民間金融機関へ臨時窓口を提供しました。[参照:日本銀行 決済システムと日本銀行]

こうした経験は、その後の金融機関や日本銀行のBCP、バックアップシステム、災害時の現金供給体制などを考える重要な教訓となりました。

東日本大震災でも多くの金融機関店舗が損壊した

2011年の東日本大震災でも金融機関は大きな被害を受けました。日本銀行は、被災地の金融機関で多くの店舗が損壊したものの、仮設店舗や移動店舗を利用しながら窓口業務を継続・再開したと説明しています。[参照:日本銀行 大震災後の日本経済]

つまり銀行の災害対策は、「建物を絶対に壊れないようにする」だけでは成立しません。想定を超える被害によって店舗が使用不能になることを前提に、別の場所から金融サービスを再開できる仕組みも必要になります。

この考え方は銀行だけではなく、行政機関、通信会社、電力会社、病院などの重要インフラにも共通するBCPの基本的な考え方です。

では震災で銀行が略奪されることはあるのか

ここは震災によって事情が異なるため、「ある」「ない」のどちらか一方で説明しないことが重要です。

阪神・淡路大震災について内閣府の教訓情報資料集では、略奪などの騒擾は起こらず、被災者の行動は総じて冷静だったと整理されています。少なくとも、災害映画で描かれるような大規模な集団による銀行略奪が広範囲に発生したという状況ではありませんでした。[参照:内閣府 阪神・淡路大震災教訓情報資料集]

しかし、これを「日本の震災では銀行やATMを狙った窃盗が絶対に発生しない」という意味に広げることはできません。

東日本大震災では閉鎖した金融機関のATMや金庫を狙う窃盗が発生した

警察庁は東日本大震災後の犯罪情勢について、震災により閉鎖した金融機関やコンビニエンスストアなどのATMや金庫から現金等を盗む事件が発生したと明記しています。

これを受け、警察庁は金融機関などに対して管理の強化や現金の早期回収を要請しました。金融庁や金融機関とも連携し、閉鎖施設のATMなどに対する防犯対策が強化されています。[参照:警察庁 被災地における安全・安心の確保]

したがって、震災時の金融機関については、大規模な略奪騒ぎが起きるとは限らない一方、無人化した店舗・ATM・金庫を狙った窃盗リスクは現実に存在するという理解が実態に近いでしょう。

なぜ地震後の銀行では現金を早く回収することがあるのか

通常時のATMや店舗は、建物、シャッター、防犯カメラ、警報装置、通信回線、警備会社など複数の仕組みによって守られています。しかし大災害では、それらが同時に機能を失う可能性があります。

例えば停電で監視設備が停止し、道路寸断によって警備員が到着できず、周辺住民も避難して無人になると、通常とは異なる防犯環境になります。建物そのものが損壊すれば、侵入防止設備も本来の性能を発揮できない場合があります。

そのため、使用不能になったATMなどから可能な範囲で現金を回収すること自体が災害時の防犯対策になります。東日本大震災後に警察庁が現金の早期回収を要請したのも、このような二次被害を防ぐためです。

銀行は「一つの支店」ではなくネットワークとして災害に備えている

現在の銀行を理解するときには、店舗単体ではなく金融ネットワーク全体を見る必要があります。ある支店が被災しても、別の支店、ATM、インターネットバンキング、データセンターなどによって業務を補完できる仕組みが構築されています。

金融庁の監督指針では、大規模災害などでも早期復旧を図り、金融システムの維持に必要な最低限の業務を継続できるBCPが求められています。また、業界団体や他の金融機関などと連携する体制も確認対象です。[参照:金融庁 監督指針]

災害時に「いつもの支店が開いていること」より、「いつもの支店が使えなくなっても金融機能を維持・復旧できること」が重要なのです。

災害時には通帳や印鑑を失った人への特別措置もある

大地震では家屋が倒壊したり火災が発生したりして、通帳、キャッシュカード、印鑑、本人確認書類などを失うことがあります。銀行が無事でも、これでは被災者がお金を引き出せないという問題が生じます。

阪神・淡路大震災では、大蔵省と日本銀行による金融特別措置が実施され、通帳や印鑑を紛失した被災者についても預金を払い戻せるよう対応が図られました。[参照:内閣府 阪神・淡路大震災教訓情報資料集]

現在の金融庁の監督指針にも災害時の金融措置が定められており、銀行には顧客と従業員の安全に配慮しながら必要な対応を取ることが求められています。[参照:金融庁 災害における金融に関する措置]

大地震ではATMも使えなくなる可能性がある

銀行店舗が倒壊しなくても、停電や通信障害が起こればATMやキャッシュレス決済が利用できなくなる可能性があります。そのため「銀行の建物が無事ならお金を自由に引き出せる」とも限りません。

阪神・淡路大震災ではオンライン機能にも大きな影響がありました。現在は当時よりバックアップ体制が発達していますが、広域停電や通信障害などが同時に起こる大規模災害では、一時的に金融サービスが制限される可能性を考えておく必要があります。

個人の防災という観点では、災害直後の必要最低限の買い物などに備え、自宅の安全な場所へ適量の現金を分散して準備しておくという考え方もあります。ただし、多額の現金を自宅に保管することは盗難・火災・紛失など別のリスクを増やすため、極端な現金保有は避けるのが合理的です。

「銀行が頑丈」より重要なのは金融システム全体の復旧力

巨大地震対策を考えるとき、銀行店舗の外壁や金庫の強さだけに注目すると金融インフラの実態を見誤ります。阪神・淡路大震災のように多数の店舗が使用不能になることは現実に起きています。

それでも金融機能を維持するため、日本銀行による現金供給、別店舗での対応、臨時窓口、バックアップシステム、金融特別措置などが組み合わされます。つまり、現代の防災では「一つの建物を絶対に壊さない」ことだけでなく、壊れた場合でも代替手段によって社会機能を継続するレジリエンスが重視されています。

日本銀行自身も阪神・淡路大震災などの経験を踏まえて決済システムの災害対応や危機管理を強化してきました。大規模災害への備えは、過去の被害を教訓として継続的に更新されているのです。

まとめ:銀行も巨大地震では被災するが、店舗の倒壊と預金の消失は別問題

銀行は防犯上強固な設備を備えていますが、それだけで巨大地震に対して無敵になるわけではありません。阪神・淡路大震災では最大約450の銀行店舗が営業停止し、実際に店舗が倒壊した金融機関もありました。

一方、支店が倒壊しても顧客の預金がそのまま消えるわけではありません。銀行は口座データやシステムを管理し、大規模災害を想定したバックアップやBCPを整備しています。被災店舗が使えなければ、別店舗や臨時窓口などを利用して金融機能を復旧させる仕組みがあります。

震災後の治安についても一律ではありません。阪神・淡路大震災では内閣府資料上、大規模な略奪などの騒擾は起こらなかったと整理されています。その一方、東日本大震災では閉鎖された金融機関などのATM・金庫から現金を盗む事件が実際に発生し、警察が防犯強化と現金の早期回収を要請しました。

巨大地震では銀行も倒壊・損壊し得ますし、無人化した金融施設への窃盗も起こり得ます。しかし現代の金融防災は、一店舗や一つの金庫だけで安全を確保するのではなく、データのバックアップ、代替店舗、現金供給、BCP、警察との連携などを含む金融システム全体で被害に耐える仕組みになっています。

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