子どもへの性的虐待はなぜ起こり得るのか|身体的な疑問と「同意・抵抗・被害」の誤解を医学的観点から整理

事件、事故

子どもへの性的虐待について知ったとき、「身体的にそもそも可能なのだろうか」「大人でも痛みや困難があるのに、なぜ子どもに対して起こり得るのか」と疑問を持つ人は少なくありません。しかし、この問題を理解するときに最も重要なのは、「身体的に行為が成立すること」と「安全に、傷つかず、本人の意思で行えること」はまったく別の話だという点です。

子どもへの性的虐待は重大な人権侵害であり、身体的な外傷だけでなく、PTSD、不安、抑うつなど長期的な影響につながることがあります。WHO(世界保健機関)も、子ども・青少年への性的虐待を重大な公衆衛生上の問題として位置付けています。[参照:WHO]

この記事では具体的な性的行為の方法や描写には踏み込まず、「なぜ子どもへの性的虐待という犯罪が現実に起こり得るのか」という疑問を、医学・心理・被害者支援の観点から整理します。

「子どもだから身体的に不可能」という理解は正しくない

まず整理しておきたいのは、子どもの身体が成人より小さいことを理由に、性的虐待そのものが物理的に起こり得ないとはいえないということです。WHOは18歳未満の子どもに対する性的虐待を医療的対応が必要な問題として扱っており、実際に身体的・精神的な健康被害が生じることを示しています。[参照:WHO Child maltreatment]

ただし、ここから「子どもの身体でも問題なく行える」と考えるのは大きな誤りです。身体的に起こり得ることと、安全であることは同義ではありません。性的虐待によって痛みや外傷などの身体的被害が生じることがありますし、心理面にも深刻な影響が残る可能性があります。

例えば交通事故について「人間の身体に大きな力が加わることは不可能ではない」と説明できても、それは「身体がその力に安全に耐えられる」という意味ではありません。同じように、虐待が現実に発生しているという事実は、その行為に身体的な無理や危険がなかったことを意味しません。

性的虐待では「できるか」ではなく「傷つけられた」と考える必要がある

成人同士の合意に基づく性的行為では、本人の意思やコミュニケーションによって行為を中止したり、痛みや不快感を避けたりできます。一方、虐待はそもそもその前提が成立していません。

特に加害者が親や養育者の場合、子どもとの間には圧倒的な力関係があります。子どもは生活、衣食住、安全などを大人に依存しています。そのため、恐怖、威圧、脅迫、心理的支配などによって抵抗や拒否が困難になる場合があります。

被害が起きたという事実は、被害者の身体が行為を問題なく受け入れたことを意味するものではありません。「起こり得る」と「無理なくできる」を分けて理解することが、この問題を考えるうえで非常に重要です。

抵抗しなかったことは同意を意味しない

性的虐待については、「嫌なら逃げたり抵抗したりするのではないか」という疑問が生じることもあります。しかし、危険な状況に置かれた人間の反応は、戦う・逃げるだけではありません。恐怖によって身体が動かなくなったり、相手に従うことで危険をやり過ごそうとしたりすることがあります。

さらに子どもは、大人と同じように状況を理解したり、自分に起きていることを適切な言葉で説明したりできるとは限りません。相手が親など信頼すべき立場の人物であれば、「これはおかしい」と認識すること自体が難しくなる場合もあります。

したがって、泣かなかった、逃げなかった、強く抵抗しなかった、長期間誰にも話さなかったといった事情から同意があったと判断することはできません。WHOも、加害者が家族や家族に近い人物の場合などには、子どもが虐待について大人へ話すこと自体に大きな障壁があると説明しています。[参照:WHO]

身体に明確な傷がない場合でも性的虐待は否定できない

もう一つ重要なのが、「性的虐待なら必ず明確な外傷が残るはずだ」という考え方です。性的虐待にはさまざまな形態があり、そもそもすべてが同じ身体的行為を伴うわけではありません。

こども家庭庁も児童虐待について、子どもへの性的行為だけでなく、性的行為を見せることやポルノグラフィの被写体にすることなどを性的虐待として説明しています。つまり、性的虐待という言葉は一種類の行為だけを指しているわけではありません。[参照:こども家庭庁]

また医療の現場では、外傷の有無だけで虐待の有無を単純に判断するものではありません。WHOの医療従事者向けガイドラインでも、子どもの安全を優先しながら、聞き取り、診察、必要な治療や心理的支援などを適切に行うことが重視されています。

子どもの性的虐待は身体だけの問題ではない

性的虐待について身体的な疑問から考え始めると、どうしても「傷ができるか」「物理的に可能か」という部分へ意識が向きがちです。しかし被害の重大性は身体的外傷だけでは測れません。

WHOは、子どもの虐待によってPTSD、不安、うつなどの精神的な問題が生じる可能性があり、性的虐待では性感染症などを含む健康上の問題にもつながり得るとしています。影響が成人後まで続く場合もあります。[参照:WHO]

特に親からの虐待では、本来安全を提供するはずの養育者が加害者になるという問題があります。そのため身体への被害だけではなく、信頼関係、安全感、自己評価、対人関係など多方面への影響を考える必要があります。

「なぜ逃げなかったのか」「なぜ話さなかったのか」も慎重に考える

家庭内での虐待では、被害を受けている子どもがすぐ周囲へ相談できるとは限りません。加害者と同居している場合、相談したことが知られる恐怖や、家族が壊れることへの不安など、さまざまな心理的要因が考えられます。

また、幼い子どもほど、自分に行われていることの意味を理解できない可能性があります。「秘密にしなさい」と言われたり、脅されたり、虐待を普通のことだと思い込まされたりすれば、第三者へ説明することはいっそう難しくなります。

そのため、後になって被害が明らかになったケースについて「本当に嫌ならもっと早く言えたはずだ」と考えるのは適切ではありません。被害を話すことそのものが非常に難しい場合があることを前提として考える必要があります。

被害を聞いたときに避けたい考え方

性的虐待の被害について、「身体的に可能だったのだから大したことはなかった」「抵抗しなかったから受け入れていた」「外傷がないから事実ではない」といった推測をすることは避ける必要があります。

また、被害者本人へ詳細な状況を繰り返し質問することも、本人に大きな心理的負担を与える可能性があります。WHOのガイドラインでは、子どもの安全と尊厳を中心に置き、不必要な苦痛や再トラウマ化を最小限にする対応が重視されています。[参照:WHO]

身近な子どもから被害について打ち明けられた場合は、自分だけで事実確認や調査をしようとするのではなく、児童相談所や警察、医療機関など適切な専門機関につなぐことが重要です。

現実の子どもについて心配がある場合は189へ

この問題が単なる一般的な疑問ではなく、「身近な子どもが性的虐待を受けているかもしれない」という状況に関係している場合は、確証が得られるまで待つ必要はありません。

日本では児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」が全国共通番号として設けられており、近くの児童相談所へつながります。こども家庭庁は「虐待かも」と思った段階で相談・通告できると案内しています。[参照:こども家庭庁 児童相談所虐待対応ダイヤル189]

現在まさに子どもの生命・身体に危険が迫っているなど緊急性が高い場合は、児童相談所への相談だけでなく警察への通報が必要になることもあります。

まとめ:身体的に起こり得ることと、安全・同意はまったく別の問題

子どもへの性的虐待について「大人でも困難や痛みが生じることがあるのに、子どもに対してどうして現実に起こり得るのか」という疑問は、「起こり得ること」と「身体的に無理なく安全にできること」を分けると理解しやすくなります。

性的虐待が現実に成立してしまうのは、子どもの身体に問題がないからではありません。身体的な傷害や痛みを伴うことがあり、さらに心理面を含めて長期的な健康被害につながる可能性があります。また、外から確認できる傷がないことだけを理由に虐待を否定することもできません。

被害が起きたこと、抵抗できなかったこと、被害を長期間話せなかったことのいずれも、子どもの同意を意味しません。親や養育者など力を持つ大人からの虐待では、恐怖や依存関係などによって子どもが拒否・逃走・相談できない場合があることまで含めて理解する必要があります。

子どもの性的虐待は、身体的な可否を論じるだけでは捉えきれない重大な児童虐待です。現実の子どもについて少しでも虐待の可能性が疑われる場合には、本人へ詳しい説明を無理に求めるのではなく、児童相談所虐待対応ダイヤル189などの専門機関へ相談することが重要です。

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