中部電力が進める浜岡原子力発電所1号機・2号機の廃炉作業をめぐり、2026年8月、工事の実施報告と費用請求に使われた資料に不適切な書き換えがあったことが明らかになりました。報道では「廃炉費用の不正請求」「報告書改ざん」などと伝えられていますが、何をどのように書き換え、どのような仕組みで費用が支払われたのかを分けて理解することが重要です。
中部電力自身の公表によれば、問題となったのは2024年度の解体撤去工事です。請負会社から受け取った工事報告書の写しについて、解体物量や解体した機器などを書き換え、実際とは異なる数値等を使用済燃料再処理・廃炉推進機構(NuRO)へ報告していました。
一方、事件の全容がすでに確定したわけではありません。中部電力は事実関係や原因、類似事案の有無などを調査している段階です。本記事では2026年8月28日時点で公表されている中部電力の資料と報道を基に、判明している事実と調査中の事項を区別して整理します。
問題が起きたのは浜岡原発1号機・2号機の廃炉作業
今回問題になっているのは、静岡県御前崎市にある浜岡原子力発電所1号機・2号機の解体撤去工事です。両号機では廃止措置計画に基づいて廃炉作業が進められています。
中部電力は2026年8月27日、2024年度の解体撤去工事について、使用済燃料再処理・廃炉推進機構、略称NuROへの実施報告・費用請求で不適切な事案が確認されたと正式に公表しました。[参照:中部電力公式発表]
ここでポイントになるのが、単に工事現場で何らかの作業ミスが発生したという話ではないことです。廃炉作業の実績を報告し、その費用を請求するための資料を作成する過程で、実績と異なる内容への書き換えが行われたという問題です。
具体的にどんな不正・不適切行為があったのか
中部電力の公式発表で確認されている中心的な問題は、請負会社から受領した工事報告書の写しを書き換えたことです。同社は「解体物量・解体機器などを書き換え、実績と異なる数値などをNuROに報告していた」と説明しています。
報道では、解体した機器やその重量などを事実とは異なる内容へ変更したほか、書類に印鑑を押したケースもあったとされています。また、実際より工事が進んでいるように見える報告になっていたと報じられています。
例えば、ある年度に計画していた解体作業が予定した量まで進まなかったにもかかわらず、報告書上の解体量を計画に近い数字へ変更すれば、書類を見る側には実際以上に工事が進んでいるように見えます。今回の問題を理解するうえでは、こうした「実際の施工実績」と「提出された資料上の実績」の不一致が重要になります。
少なくとも14件の工事報告書の写しで書き換え資料を提出
中部電力が公開した経緯によると、2025年3月末に請負会社から2024年度の工事報告書を受領し、同年4月11日にNuROへ工事実績を報告しました。
さらに2025年5月28日、2024年度の費用請求に向けた証拠書類をNuROへ提出しています。中部電力によると、この段階で少なくとも2024年度計画の14件名の工事報告書の写しについて、書き換えた資料を提出していました。
その後、NuROによる現地確認を経て、2025年9月11日に2024年度分の費用請求が行われています。この時系列からも、問題となった資料が単なる社内メモではなく、実績報告や費用請求に関係する証拠書類として提出されていたことが分かります。
廃炉費用はどのような仕組みで支払われるのか
今回のニュースが分かりにくい理由の一つは、「中部電力が誰に何のお金を請求したのか」という仕組みが一般にはなじみ薄いことです。
原子力発電所を持つ事業者は、廃炉に必要となる資金に関係する拠出金をNuROへ納付します。そして廃炉を行う際には実施計画に基づいて工事を進め、実績を報告したうえで必要な費用の支払いを受ける仕組みになっています。
つまり今回の問題は、一般消費者へ架空の請求書を直接送りつけたという種類の事件ではありません。廃炉工事の進捗や実績を証明する資料をNuROへ提出し、それを基礎として廃炉費用を請求するプロセスで不適切な書き換えが行われたというものです。
「約8億円」と報道されているのはなぜ?
2024年度分として中部電力がNuROから受領した金額については約11億円と報じられています。このうち、不適切な手続きが関係する金額について約8億円とする報道があります。
ただし、ここで注意したいのは「約8億円の全額が最終的に過大請求額として確定した」という意味とは限らないことです。中部電力は詳細な事実関係を調査しており、実際に返還が必要となる金額などについては今後の調査・確認結果を見る必要があります。
ニュースを見る際には、「不適切な資料が関係した請求額」と「本来受け取る資格がなかったと最終的に認定される金額」を同一視しないことが大切です。工事そのものが実施されている部分もあるため、最終的な金銭的影響は精査が必要になります。
なぜ書き換えたのか?「計画通りの実績にしたかった」との説明も
問題発覚直後の段階では、なぜこのような書き換えが行われたのかについて最終的な調査結果は出ていません。
一方、報道によれば、中部電力の社員の一部は聞き取りに対して「作業計画通りにしたかった」といった趣旨の説明をしているとされています。2024年度の工事が計画より遅れていたことも報じられています。
ただし、これは現時点で判明している関係者の説明の一部です。個人の判断だったのか、複数人が関与していたのか、組織的な問題だったのか、管理・チェック体制にどのような欠陥があったのかについては、今後の調査結果を待つ必要があります。
NuROの確認から問題が明らかになった
中部電力の公表資料によれば、2026年6月3日には2025年度の費用請求に向けた証拠書類もNuROへ提出されました。その後、NuROから解体保管量・廃棄物処理量について確認依頼があり、対応が進められました。
こうした確認を経て問題が表面化し、中部電力は調査を開始しています。2026年8月27日に同社が正式に不適切事案として公表しました。
NuROからは同日、本件だけでなく2025年度の実績内容についても詳細な事実関係を報告し、原因究明と再発防止策を報告するよう指示が出されています。[参照:中部電力・NuROからの指示に関する発表]
経済産業省も中部電力に報告を要求
問題を受け、経済産業大臣は中部電力に対し、法律に基づく報告徴収を行っています。
求められている内容は、本件の事実関係と経緯、対応状況、原因、実効的な再発防止策に加えて、他に類似した事案が存在しないかという点です。中部電力には2026年9月25日までの報告が求められています。[参照:中部電力・経済産業大臣からの報告徴収]
したがって、2026年8月28日時点では調査途中です。今後の報告によって、書き換えに関与した範囲、意思決定の過程、金額、類似案件の有無などについて新たな事実が判明する可能性があります。
浜岡原発の安全性への直接的な影響は?
中部電力は今回の問題について、浜岡原発の安全性に直接影響を及ぼすものではないとの見解を示しています。
理由として、対象の1号機・2号機はすでに供用を終了した設備であり、使用済燃料が貯蔵されていないこと、今回確認された問題が2024年度の解体撤去工事についてNuROへ提出する実施報告・費用請求資料の作成行為に関するものであることを挙げています。
つまり、今回判明している問題は原子炉を危険な状態で運転したというものではなく、廃炉作業の実績管理と費用請求の信頼性に関する問題として捉えるのが適切です。ただし原子力事業では安全だけでなく記録の正確性や組織への信頼も重要であるため、文書の書き換え自体が重大な問題となります。
浜岡原発では別のデータ不正問題も調査されている
今回のニュースで「また不正」と報じられている背景には、浜岡原発3号機・4号機の新規制基準適合性審査をめぐり、基準地震動策定に関する不適切事案がすでに問題となっていることがあります。
ただし、3号機・4号機の審査をめぐる問題と、今回の1号機・2号機の廃炉費用請求問題は、内容の異なる別の事案です。ニュースを読む際には混同しないよう注意が必要です。
一方で、中部電力自身も「原子力部門において度重なる不適切事案を発生させた」として謝罪しており、個別の書類の問題だけでなく、組織の管理体制や企業文化を含めた検証が重要になります。
「不正請求」と「過大請求確定」は分けて考える必要がある
今回の問題について最も注意したいのが言葉の整理です。2026年8月28日時点で明確になっているのは、実績と異なる内容に書き換えられた工事報告書の写しがNuROへ提出され、費用請求の手続きに使用されたという点です。
一方で、「本来受け取るべきでなかった金額が最終的にいくらなのか」「約8億円のうち何円が過大だったのか」「誰がどのような意思決定で書き換えたのか」などは、調査結果によって確定していく事項です。
そのため現段階では、判明済みの事実と推測を分けて見る必要があります。特に金額については、今後中部電力やNuRO、経済産業省から追加情報が公表された場合、現在報じられている数字の意味がより明確になる可能性があります。
まとめ:工事実績を書き換えた資料を使って廃炉費用を請求したことが問題
中部電力の浜岡原発1号機・2号機をめぐる問題を簡潔に整理すると、請負会社から受け取った2024年度の工事報告書の写しについて、解体物量や解体機器などを実績とは異なる内容に書き換え、その資料をNuROへの実績報告・費用請求に使用していたというものです。
少なくとも14件名の工事報告書の写しについて書き換え資料が提出されていたことが中部電力の公表資料から確認できます。また、2024年度にNuROから支払われた約11億円のうち、不適切な請求に関係する金額として約8億円が報じられています。
ただし、問題の全容や最終的な過大請求額、関与した人物・組織の範囲、2025年度分を含む類似事案の有無などは調査中です。経済産業大臣からも事実関係、原因、再発防止策、類似事案の有無について報告が求められているため、今後公表される調査結果まで確認する必要があります。
今回の事案を理解する際には、「廃炉作業そのものが行われていなかった」と単純化するのではなく、実際の工事実績と異なる資料を作成・提出し、その資料が費用請求に使われたことが問題の核心と捉えると分かりやすいでしょう。


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