大地震や豪雨、洪水などの災害が発生すると、指定避難所へ移動する人がいる一方、自動車の中で避難生活を送る「車中泊避難」を選ぶ人もいます。ニュース映像だけを見ると「避難所があるのになぜ車で寝るのだろう」と感じるかもしれませんが、その背景は単純ではありません。
実際には、避難所の収容状況、プライバシー、乳幼児や高齢者との生活、ペット、感染症への不安など、さまざまな事情から車を避難場所として利用するケースがあります。また、自宅に戻るのは危険だが避難所での集団生活も難しいため、結果として車中泊を選択する人もいます。
重要なのは、車中泊をしている人が必ずしも避難所から拒否されたわけでも、自ら好んで不便な生活を選んでいるわけでもないという点です。災害時の避難には多様な形があり、それぞれにメリットとリスクがあります。
- 災害時の「避難」は避難所へ入ることだけではない
- 避難所が満員・混雑していることがある
- プライバシーを確保しにくいことも理由になる
- 乳幼児や子どもがいる家庭では集団生活が難しいことがある
- 高齢者や障害のある人には一般の避難所が合わない場合もある
- ペットを連れていることも車中泊につながる
- 感染症への不安から集団生活を避ける場合もある
- 避難所の環境が精神的な負担になる人もいる
- 自宅と避難所を行き来しやすいという事情もある
- 車中泊にはエコノミークラス症候群のリスクがある
- トイレを避けるために水分を減らすのは要注意
- 夏の車中泊では熱中症が大きな危険になる
- 冬は寒さと一酸化炭素中毒にも注意する
- 洪水時は「車なら逃げられる」と考えないことが重要
- 車中泊でも避難所の支援情報を確認することが大切
- 避難方法は「避難所か車か」の二択ではない
- まとめ:車中泊避難にはそれぞれの事情があり、安全管理と支援につながることが重要
災害時の「避難」は避難所へ入ることだけではない
災害時に使われる「避難」という言葉は、体育館などの指定避難所で生活することだけを意味しません。危険な場所から安全な場所へ移動し、安全を確保する行動全体が避難です。
状況によっては指定避難所のほか、安全な親戚・知人宅、宿泊施設などへ移動することも考えられます。自宅が安全でライフラインなどの条件が許せば、在宅避難という選択肢もあります。
自動車を利用した避難も実際に発生します。内閣府の避難生活に関する資料でも、避難所だけでなく「在宅避難者」や「車中泊避難者」など多様な避難者の存在を踏まえた支援が扱われています。
避難所が満員・混雑していることがある
大規模災害では、想定を上回る人数が一斉に避難することがあります。避難所として体育館や公民館が開設されても、利用できる床面積や設備には限界があります。
建物そのものが被災して予定していた避難所を使用できなかったり、使用できる範囲が縮小したりする場合もあります。道路の寸断などにより、本来利用する予定だった施設へ移動しにくくなるケースも考えられます。
このような状況では、駐車場に到着したものの建物内では十分なスペースを確保できず、自動車で過ごす人が発生することがあります。ただし、すべての車中泊避難者が「避難所に入れなかった」ことを理由としているわけではありません。
プライバシーを確保しにくいことも理由になる
一般的な避難所では、多くの人が一つの体育館や大部屋で生活します。災害時には間仕切りやテントなどによる環境改善が進められますが、発災直後から十分な設備が整うとは限りません。
着替え、睡眠、授乳、家族間の会話など、普段なら私的な空間で行うことにも気を使います。周囲の話し声や照明、いびきなどで十分に眠れない人もいます。
自動車ならドアを閉めることで家族単位の空間を確保できます。この「小さいながらも自分たちだけの空間がある」という安心感から、避難所より車を選択するケースがあります。
乳幼児や子どもがいる家庭では集団生活が難しいことがある
乳幼児がいる家庭では、夜泣きや授乳、ミルク、おむつ交換などがあります。避難所を利用できないわけではありませんが、「子どもが泣いて周囲に迷惑をかけるのではないか」と保護者が心理的な負担を感じる場合があります。
例えば夜中に赤ちゃんが何度も泣く家庭では、周囲への気遣いからほとんど眠れなくなることがあります。車内であれば完全な防音ではないものの、体育館の隣のスペースで寝る人への影響を抑えやすくなります。
一方で乳幼児は暑さや寒さの影響を受けやすいため、車内環境が安全とは限りません。特に夏季の車内温度上昇には重大な危険があります。
高齢者や障害のある人には一般の避難所が合わない場合もある
高齢者や障害のある人、日常生活で介助を必要とする人にとって、体育館での雑魚寝や共同トイレなどが大きな負担になることがあります。
こうした人のために「福祉避難所」という仕組みがありますが、対象者や開設・受け入れ方法は自治体や災害の状況によって異なります。発災直後から希望者全員が直ちに適切な環境へ移動できるとは限りません。
また、慣れない集団環境そのものが強いストレスになる人もいます。その結果、家族と一緒にいられる車を一時的な避難場所として選ぶ場合があります。
ペットを連れていることも車中泊につながる
犬や猫などのペットを飼っている家庭では、ペットとの避難が大きな課題になります。環境省は災害時のペットとの「同行避難」を示していますが、同行避難とは必ずしも飼い主とペットが避難所の同じ空間で生活できるという意味ではありません。
避難所によって、ペットを飼育できる場所や管理方法などは異なります。動物が苦手な人やアレルギーのある人への配慮も必要になるため、人間の居住スペースへ自由にペットを入れられるとは限りません。
「ペットを置いていけない」「離れた場所で管理するのが不安」といった理由から、飼い主がペットと一緒に車で生活するケースがあります。ただし動物についても熱中症などの車内事故には十分な注意が必要です。
感染症への不安から集団生活を避ける場合もある
避難所では多数の人が限られた空間で生活するため、感染症対策が重要になります。換気、衛生管理、居住スペースの確保などの対策が行われますが、感染への不安が強い人が車中泊を選ぶこともあります。
特に持病などの事情を抱える家族がいる場合には、「可能なら人の密集した場所を避けたい」と考えることがあります。
ただし、感染を避ける目的で車へ移った結果、別の健康リスクが高まってしまっては安全な避難とはいえません。車中泊特有の危険についても理解しておく必要があります。
避難所の環境が精神的な負担になる人もいる
災害直後は、それだけで非常に大きな精神的ストレスがかかっています。その状態で大勢の知らない人と24時間同じ空間で過ごすことが負担になる人もいます。
音や光に敏感な人、人混みが苦手な人、他人が近くにいると眠れない人など、集団生活への適応度には個人差があります。
車中泊は快適とは限りませんが、見慣れた自分の車の中で家族だけで過ごせることに安心感を覚える人もいるため、単純に「避難所のほうが安全なのになぜ入らないのか」と判断することはできません。
自宅と避難所を行き来しやすいという事情もある
自宅が全壊したわけではないものの、余震などが怖くて建物内では眠れないというケースもあります。その場合、自宅近くに車を停めて夜だけ車中泊をすることがあります。
日中は自宅の片付けを行い、必要な生活用品を取り出し、夜は車で休むといった生活です。農業や事業、地域活動などの事情から自宅周辺を長期間離れにくい人もいます。
このように車中泊避難者の生活場所は必ずしも避難所の駐車場とは限りません。行政側から把握しにくい「避難所外避難者」になる可能性がある点も課題です。
車中泊にはエコノミークラス症候群のリスクがある
車中泊で特に注意したい健康問題の一つが、いわゆる「エコノミークラス症候群」です。正式には深部静脈血栓症や、それによって生じる肺血栓塞栓症などが問題になります。
狭い車内で長時間同じ姿勢を続けると、脚の静脈に血栓ができるリスクがあります。その血栓が血流に乗って肺の血管を塞ぐと、呼吸困難や胸痛などを起こし、重篤になることがあります。
「車の中なら他人を気にせず眠れる」という利点がある一方、長時間ほとんど体を動かさない状態は避ける必要があります。災害時の車中泊では、適度に体を動かすことや水分を取ることなどが重要になります。
トイレを避けるために水分を減らすのは要注意
災害時にはトイレの数が不足したり、断水によって使用できなくなったりする場合があります。そのため「トイレへ行きたくないから水を飲まない」という行動を取ってしまう人がいます。
しかし水分を過度に控えると脱水につながり、血液が濃縮することで血栓形成のリスクを高める一因となります。
特に高齢者は喉の渇きを感じにくいこともあるため、本人が「大丈夫」と言っていても注意が必要です。自治体や医療関係者から水分摂取や運動について案内が出ている場合は、その指示を確認しましょう。
夏の車中泊では熱中症が大きな危険になる
自動車の車内は、日差しを受けると短時間で高温になることがあります。窓を少し開けただけでは十分な暑さ対策にならない場合があります。
特に乳幼児、高齢者、持病のある人、ペットなどは熱の影響を受けやすいため注意が必要です。昼間だけでなく、気温や湿度の高い夜にも熱中症は起こり得ます。
「避難所より車のほうが落ち着く」という理由があっても、危険な温度環境で車中泊を続けるべきではありません。暑さを安全に管理できない場合は、空調が確保された避難場所への移動を検討する必要があります。
冬は寒さと一酸化炭素中毒にも注意する
冬季の災害では低体温症への注意が必要です。一方で暖房目的に自動車のエンジンをかけ続けることにも危険があります。
特に積雪時は、マフラーの排気口が雪で塞がれると排気ガスが車内へ入り込み、一酸化炭素中毒につながる危険があります。一酸化炭素は無色・無臭で、異常に気づきにくい点が問題です。
豪雪地域で車内避難をする場合には、自治体、消防、警察などから出される注意情報を確認し、安全を優先することが重要です。
洪水時は「車なら逃げられる」と考えないことが重要
洪水や大雨の際は、自動車そのものが危険になることがあります。道路が冠水すると水深や道路の状態を外から正確に判断することが難しく、車が動けなくなる可能性があります。
またアンダーパスや低い土地、河川付近などへ車で入ることは危険です。水位が上昇してから車で避難しようとすると、かえって避難が困難になる場合があります。
車中泊はあくまで災害後の避難生活の一形態として生じるものであり、洪水の最中に自動車へとどまることが安全という意味ではありません。自治体から避難情報が出た場合には、災害の種類と周辺状況に応じた安全な避難を優先します。
車中泊でも避難所の支援情報を確認することが大切
車中泊を選択したからといって、行政の支援から完全に離れてしまう必要はありません。避難所は宿泊場所だけでなく、物資や情報などの支援拠点として機能する場合があります。
一方、避難所の建物内にいない人は、行政や支援者から存在を把握されにくくなることがあります。必要な物資や医療情報が届きにくくなる可能性もあるため、自治体が避難所外避難者の登録や状況確認を行っている場合には、その案内に従うことが重要です。
車中泊を続ける事情がある場合も、近隣の避難所や自治体の窓口とつながりを持ち、給水、食料、トイレ、医療、入浴などの支援情報を確認しておくと安心です。
避難方法は「避難所か車か」の二択ではない
災害時の避難先を考えるとき、「体育館へ行くか、車で寝るか」という二択にする必要はありません。災害の種類、自宅の安全性、家族構成、健康状態などによって適切な方法は変わります。
例えば、自宅が安全なら在宅避難をしながら避難所で物資や情報を確認する方法もあります。親戚宅など安全な場所へ移動できる場合には、そこへ避難する選択肢もあります。
また最初は車中泊でも、避難所の環境が整った段階で移動したり、自治体の案内によって別の避難施設へ移ったりすることも考えられます。状況の変化に合わせて避難方法を見直すことが大切です。
まとめ:車中泊避難にはそれぞれの事情があり、安全管理と支援につながることが重要
地震や洪水などの災害後に車中泊をしている人には、避難所の混雑だけでなく、プライバシーの確保、乳幼児や高齢者との生活、障害や介助の事情、ペットとの同行、感染症への不安、集団生活によるストレス、自宅から離れにくい事情など、さまざまな背景があります。
したがって、車中泊をしている姿だけから「避難所を利用できない人」「避難所へ行きたくない人」と一括りにすることはできません。災害時には避難所外で生活する人も存在することを前提として、支援を届けることが重要になります。
一方で、車中泊にはエコノミークラス症候群、脱水、熱中症、低体温症、一酸化炭素中毒など特有のリスクがあります。車というプライベート空間を確保できるメリットだけで判断せず、健康状態や季節、周囲の災害リスクを継続的に確認する必要があります。
災害時に最も大切なのは特定の避難方法にこだわることではなく、その時点で安全性の高い場所を選び、必要な支援や正確な情報につながり続けることです。平時から自治体のハザードマップや指定避難所、家族の避難方法を確認し、車中泊が必要になった場合のリスクについても家族で共有しておくと、非常時の選択肢を増やすことにつながります。


コメント