なぜドイツでAfDの支持が拡大したのか?移民・経済・東西格差から読み解く背景

国際情勢

ドイツでは近年、右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持拡大が大きな政治テーマになっています。2025年2月の連邦議会選挙ではAfDの比例票にあたる第2票の得票率が20.8%となり、2021年の10.4%から倍増しました。152議席を獲得し、CDUに次ぐ第2党となったことから、一時的な抗議票だけでは説明しにくい規模になっています。[参照:ドイツ連邦選挙管理当局 2025年連邦議会選挙最終結果]

では、なぜこれほどAfDへの票が増えたのでしょうか。結論を単純化して「ドイツ人が追い詰められたから」「移民が増えたから」と説明すると、重要な部分を見落とします。実際には移民・難民問題、経済への不安、既成政党への不満、東西ドイツの地域差、社会や政治から取り残されているという感覚など、複数の要因が重なっています。

この記事では、2025年連邦議会選挙の結果やドイツ連邦政治教育センター(bpb)などの資料をもとに、AfD支持拡大の背景をできるだけ一面的にならないよう整理します。

AfDはどのくらい支持を伸ばしたのか

まず確認しておきたいのは、AfDの支持拡大が実際に非常に大きかったことです。2025年連邦議会選挙でAfDは第2票の20.8%を獲得しました。2021年は10.4%だったため、4年間で10.4ポイント上昇しています。

得票数では約1033万票に達し、議席数も2021年選挙時の83議席から152議席へ増加しました。つまり2025年時点では、AfDはドイツ政治における主要政党の一つとして無視できない規模になっています。

ただし「ドイツ人の大多数がAfDを支持している」という意味ではありません。得票率20.8%は非常に大きな数字である一方、有効票の約8割はAfD以外へ投じられています。AfD支持の拡大とドイツ社会全体の意見を同一視しないことが重要です。

AfD支持拡大の理由は一つではない

AfD支持者について考えるとき、「失業者だから」「貧困だから」「移民に反対だから」と一つの属性だけで説明したくなります。しかし、ドイツ連邦政治教育センター(bpb)は、AfDの有権者について単一原因による説明では不十分だと指摘しています。[参照:ドイツ連邦政治教育センター AfDの選挙結果と支持者]

例えば失業率が高い地域だから必ずAfDが強くなるわけではなく、外国人比率が高い地域だから必ずAfDへの投票が増えるわけでもありません。経済状況、地域、職業、政治への信頼、移民政策への評価などが複雑に組み合わさっています。

したがってAfDの台頭を見る場合には、「何か一つの出来事によってドイツ社会が突然右傾化した」というより、以前から存在していた不満に複数の危機や政治課題が積み重なったと考えるほうが実態を理解しやすくなります。

大きな争点の一つが移民・難民問題

AfDを理解するうえで避けられないテーマが移民・難民政策です。特に2015年前後の欧州難民危機以降、ドイツでは移民受け入れ、国境管理、難民認定、社会統合、治安などをめぐる議論が続いてきました。

ここで重要なのは、移民問題に対する有権者の関心には複数の種類があることです。治安への不安を重視する人もいれば、住宅、学校、行政サービス、社会保障などへの負担を懸念する人もいます。また文化的・社会的な変化そのものに不安を感じる層も存在します。

一方で、移民が増えれば機械的にAfD支持が増えるという単純な関係ではありません。bpbも外国人比率だけではAfDへの投票傾向を説明できないとしています。重要なのは客観的な移民人口だけではなく、有権者が移民政策や政府の対応をどう評価しているかという点です。

経済への不安もAfD支持と関係している

もう一つの重要な背景が経済です。ドイツは製造業、とりわけ自動車、化学、機械などの輸出産業を経済の強みとしてきました。しかしエネルギー価格、国際競争、産業構造の転換などを背景に、将来の雇用や生活水準への不安を抱く人もいます。

bpbによる2025年選挙の分析では、自分自身の経済状況を「あまり良くない」または「悪い」と評価する人々の間でAfDが大きく伸び、39%に達したとされています。これは経済的不安とAfD支持の間に重要な関連があることを示しています。

ただし、これも「貧しい人はAfDに投票する」という意味ではありません。例えば西部ドイツでは、平均を下回る世帯所得の地域や産業労働者がいる地域でAfDが支持を得やすい傾向が指摘されています。現在の所得だけでなく、将来自分の仕事や地域産業が衰退するのではないかという不安も政治的態度に影響します。

東部ドイツでAfDが特に強い理由

AfDの支持を語る際に非常に重要なのが、旧東ドイツ地域と旧西ドイツ地域の違いです。ドイツ統一から長い年月が経過していますが、所得、資産、人口動態、企業本社の所在、地域社会の構造などには現在も差が残っています。

bpbは、東部では人口流出が続き、経済的に取り残される危険のある農村地域などでAfDが強いと分析しています。若者が都市や西部へ移住し、人口が減り、公共サービスや地域経済が縮小すると、「自分たちの地域は政治から忘れられている」という感覚が生まれやすくなります。

これは単なる所得額の問題ではありません。自分の地域には十分な投資が行われない、都市部の価値観ばかり重視される、ベルリンの政治家は地方の生活を理解していない、といった政治的・社会的な疎外感も反既成政党票を生み出す要因になります。

既成政党への不満がAfDへの票を押し上げる

AfD支持者の全員が、AfDのあらゆる政策に強く賛成して投票しているとは限りません。既成政党への不満を表明するためにAfDへ投票する、いわゆる抗議票の側面も重要です。

この点は2025年11月のARD-DeutschlandTRENDの調査にも表れています。同調査では、AfDが強くなった理由について、有権者はAfD自身の政策や人材以上に、他の政党が提示する政治への失望を重視していました。また69%が、政府が重要な政策分野で成果を出せばAfDの支持は低下すると考えていました。[参照:Infratest dimap ARD-DeutschlandTREND]

つまりAfDの伸長は「AfDが魅力的になった」という側面だけでは説明できません。既存の政党や政府に問題を解決する能力がない、と感じる有権者が増えるほど、既成政治への対抗勢力を掲げる政党が利益を得やすくなるという構造があります。

コロナ禍・エネルギー問題・物価など複数の危機が続いた

ドイツ社会は短期間に複数の大きな変化を経験しました。新型コロナウイルス流行期には行動制限やワクチン政策をめぐって社会が分断され、その後はロシアによるウクライナ侵攻とエネルギー問題、物価上昇などが続きました。

それぞれの問題についてAfD支持者が同じ意見を持っているわけではありません。しかし危機が連続すると、政府や既存制度への信頼が弱い人々の間では「現在の政治は生活を良くしてくれない」という認識が強まりやすくなります。

こうした不満の受け皿として、既成政党とは大きく異なる政策を主張するAfDが選択肢になったと考えることができます。

「追い詰められたドイツ人」という説明だけでは不十分

AfDの支持拡大を「ドイツ人が生活できないほど追い詰められた結果」と説明するのは正確ではありません。AfD支持者にはさまざまな所得・職業・年齢の人がおり、経済的困窮だけでは支持を説明できないからです。

政治学では、実際の生活水準だけではなく「自分は以前より悪くなっている」「他の集団より不当に扱われている」「将来もっと悪くなるのではないか」といった相対的な不安も政治行動に影響すると考えられています。

例えば現在仕事があって生活できていても、自動車産業の工場が将来縮小するかもしれない、地域から若者が減っている、住宅費が上がっている、政府が自分の関心事を優先してくれない、と感じれば政治への不満は強くなり得ます。「困窮」と「不安・不満」は分けて考える必要があります。

AfD支持者を一つのタイプとして考えないことが重要

AfDへ投票する理由は人によって異なります。移民政策を最優先する人、経済政策への不満から投票する人、既成政党への抗議として選ぶ人、AfDの保守的・ナショナリズム的な政策を積極的に支持する人などが存在します。

地域によっても事情が異なります。例えば2025年連邦議会選挙でAfDの第2票得票率は全国20.8%でしたが、地域ごとの支持率には大きな差があります。したがって「ドイツ人はこう考えている」と国民全体を一括りにすることはできません。

またAfDに投票しなかった人の中にも、移民政策や経済政策に不満を持つ人はいます。同じ問題意識を持っていても、CDU・CSU、SPD、左派党など別の政党を選択する場合があるためです。

AfDの支持拡大を理解するために見るべき5つの要素

ここまでの内容を整理すると、AfD支持の拡大を見る際には次の要素を分けて考えると理解しやすくなります。

要素 AfD支持との関係
移民・難民 国境管理、治安、社会統合、行政負担などへの不満
経済 物価、雇用、産業競争力、将来の生活水準への不安
地域格差 特に東部や人口流出地域での疎外感
既成政党への不満 政府や主要政党が問題を解決できていないという評価
価値観・アイデンティティ 社会や文化の急速な変化への反発や保守的価値観

これらは独立しているわけではありません。例えば「地域経済が衰退している」という不安と「政府は移民問題ばかりに資源を使っている」という認識が結びつくこともあります。

逆に経済的に安定していても、移民政策や文化的価値観を理由にAfDへ投票する人もいます。この複合性こそが、AfD支持を一つの原因で説明できない理由です。

AfDの台頭はドイツだけの特殊現象でもない

反既成政党、移民抑制、ナショナリズムなどを掲げる右派・ポピュリスト政党が支持を伸ばす現象は、ドイツだけに限られません。欧州各国でも、移民、物価、住宅、EU政策、グローバル化などへの不満を背景として既成政党以外の勢力が伸長してきました。

ただしドイツの場合、ナチス時代の歴史を背景に極右政治への警戒が非常に強く、AfDをめぐる議論は他国以上に大きな社会的意味を持っています。

そのためAfDの支持拡大を分析する際には、支持者の不満や社会的背景を理解することと、AfDの具体的な政策・発言・政治的性格を評価することを分ける必要があります。支持が増えた理由を分析することは、その政党の主張を肯定または否定することとは別の作業です。

まとめ:AfD支持拡大は移民だけでも経済だけでも説明できない

2025年のドイツ連邦議会選挙でAfDは第2票20.8%を獲得し、2021年の10.4%から大幅に支持を伸ばしました。152議席を獲得して第2党になったことから、AfDの台頭は現代ドイツ政治を理解するうえで重要な現象になっています。

その背景には、移民・難民政策への不満、経済と雇用への不安、東西・都市地方間の格差や疎外感、既成政党への失望、社会的・文化的変化への反発などがあります。どれか一つがAfD支持を生み出したのではなく、複数の要因が重なった結果として考えるのが妥当です。

特に重要なのは、客観的に生活が困窮しているかどうかだけでなく、「将来悪くなるのではないか」「政治家が自分たちの問題を理解していない」という不安も投票行動に影響することです。bpbの分析でも、2025年選挙では自身の経済状況を悪く評価する層でAfDが大きく伸びています。[参照:ドイツ連邦政治教育センター]

したがってAfD支持の拡大を「ドイツ人が追い詰められたから」とだけ捉えるより、長期的な地域格差や政治的不信の上に、移民、経済、物価、エネルギーなどの問題が重なり、既成政党への不満をAfDが吸収したと捉えるほうが、現在のドイツ政治をより正確に理解できます。

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