国債を相続した場合の相続税について、近年注目されているのが「個人が保有する国債について相続税を軽減・非課税にできないか」という議論です。国債の国内での安定的な保有を促す政策として考えられる一方、資産の多い世帯ほど恩恵が大きくなる可能性があり、税負担の公平性という論点もあります。
2026年8月時点では、一般的な個人向け国債を保有しているだけで、その国債が一律に相続税非課税になる制度はありません。また、政府が国債を全面的に相続税非課税とすることを正式決定した状況でもありません。一方で、自民党内に個人向け国債の相続税負担を緩和する意見があることは、財務大臣の記者会見でも言及されています。
この記事では、国債を相続した場合の現在の税制を整理したうえで、相続税非課税をめぐってどのような議論があるのか、制度が導入される場合にどのような論点が生じるのかを解説します。
現在の国債は原則として相続財産になる
まず押さえておきたいのは、国債だから相続税がかからないという制度にはなっていないことです。被相続人が保有していた国債は、預貯金や株式などと同じように相続財産として扱われます。
もっとも、国債を相続したから必ず相続税を納めるという意味ではありません。相続税には遺産全体に対する基礎控除があり、課税価格の合計額が基礎控除額以下であれば、基本的に相続税は発生しません。
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。例えば法定相続人が2人なら基礎控除は4,200万円です。国債だけを見るのではなく、不動産、預貯金、有価証券などを含めた遺産全体で考える必要があります。
「国債を相続税非課税に」という議論は実際に存在する
国債の相続税優遇については、単なるインターネット上の噂ではなく、2026年に入って政治レベルでも議論されています。
2026年7月の財務大臣記者会見では、日本国債の安定消化や保有者の多様化に関連して、自民党内に個人向け国債の相続税を一定範囲で緩和する意見があることが取り上げられました。財務大臣も、自民党内にNISAへの国債組み入れや、富裕層優遇とならない範囲で相続税を緩和する考え方があることに言及しています。
したがって、「国債の相続税優遇」という政策アイデアそのものは存在しますが、「国債なら無制限に相続税を非課税にする」という制度が決定したわけではありません。この二つを区別して理解することが重要です。
2026年度税制改正で国債の相続税非課税は導入されていない
制度が実現したかどうかを判断する際には、政治家の発言だけでなく、政府の税制改正大綱や成立した税制改正法を確認する必要があります。
2026年度(令和8年度)税制改正では、相続税・贈与税について複数の見直しが行われています。しかし、一般の個人が保有する国債を一律に相続税非課税とする制度は盛り込まれていません。
そのため2026年8月時点では、「今後そうした制度が検討される可能性」と「現在利用できる制度」を分けなければなりません。将来の税制改正で導入される可能性は否定できませんが、現時点で将来の制度内容を確定事項として扱うことはできません。
なぜ国債の相続税を軽減する案が出てくるのか
背景の一つに、日本国債を誰が保有するのかという問題があります。国が発行した国債は金融機関、機関投資家、個人などが購入します。個人による国債保有を促進できれば、国債の保有者を多様化する政策の一つになり得ます。
例えば「一定額まで個人向け国債の相続税を優遇する」という仕組みがあれば、預金の一部を国債に移そうと考える人が増える可能性があります。相続を意識する高齢世代にとって税制上のメリットは強い購入動機になり得るためです。
国にとっては個人による安定的な国債保有を増やせる可能性があり、個人にとっては資産承継時の負担を軽減できる可能性があります。この双方のメリットが、国債への相続税優遇が政策案として浮上する理由の一つです。
一方で「富裕層優遇」になる問題がある
国債を相続税非課税にする政策には、大きな課題もあります。その代表が税負担の公平性です。
例えば国債を100万円保有する家庭と1億円保有する家庭について、保有額に関係なく全額を非課税にすると、金額ベースでは後者が受ける税制上の恩恵が非常に大きくなります。相続直前に現預金を国債へ移して相続税を減らす行動が広がる可能性についても検討が必要になります。
そのため実際に制度化するとしても、無制限の非課税ではなく、対象を個人向け国債に限定する、非課税額に上限を設ける、一定期間以上の保有を条件にするといった設計が議論される可能性があります。ただし、これらは制度設計として考えられる例であり、2026年8月現在の確定制度ではありません。
国債をNISAの対象にする案とは別の話
国債をめぐる税制では、「国債をNISAの対象にする」という議論もあります。しかし、これは相続税非課税とは別の制度論です。
NISAは基本的に投資によって得られる利益などに対する所得税上の非課税制度です。一方、相続税は亡くなった人から財産を取得した際に、その相続財産を対象として計算する税金です。
したがって、仮に将来国債がNISAの対象商品になったとしても、それだけで相続時の国債が自動的に相続税非課税になるとは限りません。「運用中の利益への課税」と「死亡時の財産への相続税」は分けて確認する必要があります。
国債だけを買えば相続税対策になるわけではない
現行制度のもとでは、相続税対策を目的として預金を国債へ変更しても、それだけで相続財産そのものが消えるわけではありません。
例えば1,000万円の預金を使って1,000万円相当の国債を購入した場合、資産の種類が預金から国債へ変わっただけです。相続時にはその国債について相続税評価を行い、ほかの財産と合わせて相続税を計算することになります。
「国債は国が発行しているから相続税も非課税だろう」と考えて購入すると、想定と異なる結果になりかねません。税制優遇を目的として金融商品を選ぶ場合には、その時点で施行されている制度を確認することが大切です。
もし相続税優遇が導入されたら確認したいポイント
将来的に個人向け国債について相続税の優遇制度が導入された場合は、「非課税になる」という見出しだけで判断せず、適用条件まで確認する必要があります。
| 確認項目 | チェックしたい内容 |
|---|---|
| 対象商品 | すべての国債か、個人向け国債だけか |
| 非課税限度額 | 全額か、一定金額までか |
| 保有期間 | 相続前に一定期間の保有が必要か |
| 購入時期 | 制度開始後に購入した国債だけが対象か |
| 相続人の条件 | 配偶者や子など対象者に制限があるか |
| 既存国債 | 制度開始前から保有している国債も対象になるか |
特に重要なのが非課税限度額です。仮に制度が作られても、富裕層への過度な優遇を避ける観点から上限が設定されれば、「国債を持っていればすべて非課税」という制度にはなりません。
また税制改正では適用開始日が定められます。制度が発表された時点と実際に施行される時点が異なる場合もあるため、購入を判断するときには法律の施行時期まで確認する必要があります。
相続目的で国債を購入するなら税制以外も考える
個人向け国債は、元本や利率、換金条件などの商品性を理解したうえで利用する金融商品です。将来の税制改正への期待だけで資産の大部分を移すのは慎重に考える必要があります。
相続では国債以外にも預貯金、不動産、株式、生命保険など多数の財産をまとめて扱います。また配偶者の税額軽減など、相続人の構成によって利用できる制度も変わります。
特に相続税が実際に発生する規模の資産がある場合は、将来導入されるか分からない制度を前提にするのではなく、税理士などの専門家に現在の資産構成を示して試算してもらう方法が確実です。
まとめ:国債の相続税優遇は議論されているが、現時点で一律非課税ではない
2026年8月時点では、個人が保有する国債について相続税を一律非課税とする制度は導入されていません。国債も原則として相続財産に含まれ、ほかの財産と合わせて相続税を計算します。
一方、個人による国債保有を促す観点から、自民党内などで個人向け国債の相続税負担を緩和する意見が出ていることは確認されています。財務大臣も2026年7月の記者会見で、このような意見が存在することに言及しています。そのため、国債の相続税優遇はまったく根拠のない話ではなく、今後の政策論点の一つといえます。
ただし、政策として検討されていることと、法律として成立・施行されていることは別です。また実現するとしても、富裕層優遇や租税回避を防ぐため、非課税限度額や対象となる国債、保有期間などの条件が設けられる可能性があります。
国債を相続対策として検討する場合は、「将来非課税になるかもしれない」という予測ではなく、その時点の財務省・国税庁などの公的情報と成立済みの税制を基準に判断することが重要です。税制は改正されることがあるため、実際の相続や資産移転では最新制度を確認し、必要に応じて税理士などの専門家へ相談してください。


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