ナフサはエチレンやプロピレンなどの基礎化学品を製造する際の主要原料で、プラスチック、合成ゴム、塗料、電子部品、医療用品など幅広い製品のサプライチェーンに関係しています。そのため、中東情勢によってナフサの輸入が滞ると、単なる燃料不足ではなく製造業全体の問題へ波及する可能性があります。
2026年の日本では中東からの供給が不安定になった一方、米国、アルジェリア、ペルーなど中東以外からのナフサ調達を大幅に増やす動きが進んでいます。資源エネルギー庁は2026年6月の資料で、中東以外からのナフサ輸入が情勢緊迫化前の月約45万klから、4月約110万kl、5月には135万kl超まで増える見込みを示しました。[参照:資源エネルギー庁]
したがってナフサ問題を見るときは、「中東から届くか」だけではなく、代替輸入、国内精製、製品在庫、輸送距離、運賃を合わせて考える必要があります。
- そもそも日本はなぜナフサ不足の影響を受けやすいのか
- ナフサ不足は解消に向かっているのか
- 不足解消と価格低下は別の問題
- 中東産原油を喜望峰経由で運ぶとどうなるのか
- 米国から日本への輸送も必ず喜望峰経由になるのか
- 米国からなら中東の喜望峰ルートと輸送費は同程度なのか
- 米国から日本まで本当に2か月かかるのか
- カナダは米国と同じ北米でも条件がかなり違う
- アラスカ産なら日本への輸送距離を短縮できる
- 原油の輸入増加とナフサの直接輸入は分けて考える
- 日本政府も調達ルートの多様化を進めている
- 今後のナフサ価格を左右するポイント
- ナフサ不足を見るときは「数量・価格・時間」を分けて考える
- まとめ:ナフサ供給は代替調達で改善方向だが、輸送コストと価格には注意
そもそも日本はなぜナフサ不足の影響を受けやすいのか
ナフサは原油を精製すると得られる石油製品の一つです。日本国内の製油所でも生産できますが、石油化学産業が必要とする全量を国内生産だけで賄っているわけではなく、輸入ナフサも重要な供給源になっています。
さらに日本のエネルギー供給は歴史的に中東への依存度が高く、原油についてはサウジアラビアやUAEなどが主要な調達先です。資源エネルギー庁によれば、2023年度の原油輸入に占める中東地域の割合は94.7%でした。[参照:資源エネルギー庁 エネルギー動向]
ナフサについても中東情勢による物流混乱は大きな問題になります。特定地域や海上交通の要衝に依存していると、航路の安全性が低下しただけでもタンカーの配船、保険料、運賃、到着時期などへ影響が及ぶからです。
ナフサ不足は解消に向かっているのか
2026年6月に資源エネルギー庁が公表した資料を見る限り、日本国内については当初懸念されたような急激な供給途絶を回避する方向へ対策が進んでいると見ることができます。
同資料では、国内でのナフサ精製を継続するとともに、米国、アルジェリア、ペルーなど中東以外からの輸入を増加させていると説明されています。中東情勢緊迫化前には中東以外から月約45万klだったものが、2026年4月には約110万kl、5月には135万kl超まで増える見込みとされました。単純計算では以前の約3倍です。
さらにポリエチレンなど中間段階の化学製品について約1.8か月分の在庫があるとされ、化学製品の輸出削減なども組み合わせることで、ナフサ由来の化学製品の供給を年越しまで継続できる見通しが示されていました。これは「ナフサそのものが十分余っている」という意味ではなく、複数の対策によって化学製品の供給を維持する余力が増えたという意味で理解するのが適切です。
不足解消と価格低下は別の問題
ここで重要なのは、「必要量を確保できること」と「以前と同じ価格で確保できること」は別だという点です。
遠方の国からナフサや原油を調達すれば、航海日数が長くなり、船舶を拘束する期間も長くなります。タンカー運賃だけでなく、燃料費、保険料、市況、船腹需給なども輸送コストに影響します。
例えば近い供給元から10のコストで運べていたものが、代替調達によって15や20になったとしても、数量を確保できれば「不足」は改善します。しかし需要家から見れば購入価格が上昇する可能性が残ります。したがって今後は量の問題が緩和しても、高コストという問題が続く可能性があります。
中東産原油を喜望峰経由で運ぶとどうなるのか
中東産と一口にいっても、積出港によってルートは異なります。例えばペルシャ湾側から日本へ向かう通常の航路と、サウジアラビア国内のパイプラインを利用して紅海側のヤンブーから積み出すケースでは条件が違います。
2026年8月には出光興産がサウジアラビアのヤンブーから原油を調達し、スエズ運河を通って喜望峰を回るルートを利用していることが報じられました。この場合、日本への輸送には約50~60日を要するとされています。
これは通常よりかなり長い輸送です。一方、ホルムズ海峡など特定のチョークポイントへの依存を減らせるメリットがあります。エネルギー調達では、最短距離だけでなく「多少遠回りしてでも確実に届くルートを複数確保する」という考え方が重要になります。
米国から日本への輸送も必ず喜望峰経由になるのか
米国産の原油やナフサを日本へ運ぶ場合、必ず喜望峰を通るわけではありません。どの港から積み出すのか、船の大きさ、運賃、運河の通航条件などによって最適なルートが変わります。
例えば米国のメキシコ湾岸から日本へ向かう場合には、パナマ運河を利用するルートと、喜望峰方面へ回るルートなどが考えられます。ただし大型タンカーでは船型による制約があり、すべての船が同じルートを利用できるわけではありません。
また、パナマ運河では水不足などによって通航制限が発生した実績もあります。つまり「距離だけならこちらが短い」という判断だけではなく、その時点の運河通航条件、待ち時間、運賃、船型などを考慮して配船されます。
米国からなら中東の喜望峰ルートと輸送費は同程度なのか
これは一概には比較できません。海上運賃は単純な距離比例ではなく、タンカーの種類、積載量、船舶需給、燃料価格、保険料、港湾費用、運河通航料、復路で貨物を確保できるかといった条件で変化するからです。
例えば航海距離が同程度でも、タンカー不足が起きている航路では運賃が大幅に上昇する場合があります。逆に距離が長くても船腹に余裕があり、安価に船を確保できれば価格差が小さくなる可能性があります。
したがって「米国から日本まで○円、中東から喜望峰経由なら○円」と固定的に比較するより、その時点のフレート市場を含めた着地価格で比較する必要があります。ナフサ市場でCFR Japanのような日本到着ベースの価格指標が重視される理由の一つでもあります。
米国から日本まで本当に2か月かかるのか
約2か月という期間は、出発地や航路によっては十分あり得ますが、すべての米国発貨物に当てはまる数字ではありません。
特に米国は国土が広く、太平洋側とメキシコ湾岸・大西洋側では日本までの海上距離が大きく異なります。さらに実際の調達期間には、海上輸送だけでなく積み込み、港での待機、荷役、配船調整なども関係します。
そのため「米国産だから日本まで必ず約60日」と考えるのではなく、どこの輸出ターミナルから、どの船型で、どの航路を利用するのかを見る必要があります。
カナダは米国と同じ北米でも条件がかなり違う
カナダからの輸送についても「北米だから米国と大差ない」とは限りません。特に重要なのが、カナダのどちら側の港から輸出するかです。
カナダ西海岸は太平洋に面しているため、日本へ向かう貨物であればパナマ運河や喜望峰を通る必要がありません。太平洋を横断して東アジアへ向かえるため、米国メキシコ湾岸や大西洋岸からの輸送とは地理的条件が大きく異なります。
一方、カナダ東部から積み出す場合は事情が変わります。つまり原油や石油製品の輸送では「米国産」「カナダ産」という国名だけでなく、実際の積出港がどこなのかを見ることが非常に重要です。
アラスカ産なら日本への輸送距離を短縮できる
地理的には、アラスカから日本への輸送は米国メキシコ湾岸などから運ぶ場合より短くできます。太平洋側から直接東アジアへ向かえるためです。
ただしエネルギー調達では距離が短ければ必ず有利というわけではありません。日本の製油所で処理しやすい油種か、必要な数量を継続的に確保できるか、原油自体の価格はいくらかといった条件があります。
ナフサについても同様で、輸送距離だけでなく供給可能量や品質、契約条件まで含めて比較する必要があります。最短距離の供給国だけですべてを賄うのではなく、複数地域へ調達先を分散させることが供給安定性につながります。
原油の輸入増加とナフサの直接輸入は分けて考える
ナフサ不足を考える際に混同しやすいのが「原油」と「ナフサ」です。日本が米国産原油を輸入して国内製油所で精製し、その過程でナフサを生産する方法と、海外で既に精製されたナフサを直接輸入する方法があります。
2026年の対策ではこの両方が重要です。資源エネルギー庁は、国内精製によるナフサ生産を維持しながら、中東以外からナフサそのものの輸入も加速する方針を示しています。
つまり「中東産ナフサの代わりを全部米国産ナフサで置き換える」という単純な構造ではありません。原油の代替調達、国内精製、ナフサ直接輸入、中間化学製品の在庫や輸入などを組み合わせてサプライチェーンを維持しています。
日本政府も調達ルートの多様化を進めている
資源エネルギー庁は2026年6月時点で、原油についても代替調達が進展していることを公表しています。6月の代替調達は従来見通しの7割以上から8割程度まで引き上げられました。[参照:資源エネルギー庁 中東情勢を受けた対応]
さらに2026年8月には、ホルムズ海峡などのチョークポイントを回避する原油・ナフサ輸送について、追加輸送費を支援する仕組みも検討・具体化されています。これは今回の供給混乱を一時的な問題として処理するだけではなく、今後の危機にも対応できる調達網を構築する狙いがあります。
従来の日本にとって中東は価格、品質、長年の取引関係などの面で重要な供給地域です。その関係を維持しながら、米国などの北米、中南米、北アフリカなどへ調達先を広げることが今後の重要な課題になります。
今後のナフサ価格を左右するポイント
供給量が確保できても、ナフサ価格がすぐ以前の水準へ戻るとは限りません。特に注目したいのは、中東からの輸出回復、タンカー運賃、原油価格、アジアの石油化学需要、代替供給国からの輸入量です。
中東から通常航路で大量のナフサが再び供給されれば、需給面では価格を押し下げる要因になります。一方で遠距離輸送への依存が続き、タンカー運賃が高止まりすれば、日本到着価格には上昇圧力が残ります。
また日本だけでなく韓国、中国、台湾などアジア各国もナフサを必要としています。代替供給を各国が同時に求めれば、米国や欧州などからアジアへ向かう貨物の獲得競争が起こる可能性があります。
ナフサ不足を見るときは「数量・価格・時間」を分けて考える
今後の状況を理解するうえでは、「ナフサ不足」という一言だけで判断しないことが大切です。
| 見るポイント | 意味 |
|---|---|
| 数量 | 国内需要を満たすナフサや代替原料を確保できるか |
| 価格 | 遠距離輸送や需給逼迫で調達価格が上昇していないか |
| 時間 | 代替輸入品が日本へ到着するまで何日必要か |
| 在庫 | 到着までの期間を国内在庫でつなげられるか |
| 国内精製 | 輸入原油から国内でナフサを生産できるか |
数量を確保できても価格が高い状態はあり得ますし、十分な貨物を契約できても到着まで50~60日かかるなら、その間を在庫でつなぐ必要があります。この三つを分けて考えると状況を理解しやすくなります。
まとめ:ナフサ供給は代替調達で改善方向だが、輸送コストと価格には注意
2026年の日本のナフサ供給については、中東からの供給混乱という大きなリスクが発生した一方、米国、アルジェリア、ペルーなど中東以外からの輸入拡大、国内精製、中間製品の在庫活用などによって対応が進んでいます。資源エネルギー庁が2026年6月に示した見通しからは、少なくとも国内の化学製品供給が直ちに途絶するリスクは当初より低下したと考えられます。
一方、不足が緩和することと価格が元に戻ることは同じではありません。調達先を遠方へ変更したり、通常より長い航路を利用したりすれば、輸送コストが上昇する可能性があります。
また米国からの輸入がすべて喜望峰経由になるわけではなく、積出港や船型によってパナマ運河など別のルートも選択肢になります。カナダについても西海岸からなら太平洋を直接横断できるため、米国メキシコ湾岸と同条件ではありません。アラスカも地理的には日本に近いものの、実際の調達では供給量、油種、価格、製油所との適合性などを総合的に判断する必要があります。
今後は「中東から輸入できるか」だけでなく、中東以外からどれだけ安定して調達できるか、タンカー運賃がどこまで落ち着くか、国内在庫を維持できるかが重要になります。短期的な不足対策から、複数地域・複数航路を利用する長期的な供給網の強化へ移行できるかが、日本のナフサと石油化学製品の安定供給を左右するポイントになります。


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