地層処分場は安全ならなぜ東京・霞が関に造らない?高レベル放射性廃棄物の立地条件と「地下300m」の誤解を解説

原子力

高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の地層処分をめぐっては、「地下300メートルより深く埋めれば安全だというなら、なぜ霞が関や永田町、電力会社の本社の地下に造らないのか」という疑問がしばしば出てきます。2026年8月には茨城県常陸大宮市に対する文献調査の申し入れが注目されたことで、この疑問を持つ人も増えています。

この問題でまず重要なのは、地層処分は「地下300メートルより深ければ、どこに造っても同じように安全」という技術ではないことです。処分地には、火山・活断層・隆起や侵食・地熱・地下水・岩盤の強度など、長期間の安全性に関係する地質条件が求められます。資源エネルギー庁も「日本中どこでも可能ということではありません」と明記しています。[資源エネルギー庁・科学的特性マップQ&A]

さらに、地層処分場はリニア中央新幹線の地下駅のように「ビルの地下へ一つの巨大空間を造れば完成」という施設でもありません。地下には数平方キロメートル規模の処分施設が広がり、地上にも廃棄物の受け入れ・検査施設、緩衝材製作施設、掘削土の置き場などが必要です。東京が制度上最初から全面的に除外されているわけではありませんが、「東京の地下なら土地を使わず簡単に造れる」という話でもないのです。

地層処分場は「地下300mならどこでも安全」ではない

日本の地層処分では、地下300メートル以上の深さに高レベル放射性廃棄物などを処分することが法律で定められています。しかし「300メートル」という数字だけで処分場所が決まるわけではありません。

NUMO(原子力発電環境整備機構)は、実際の処分場について、地下水の流れが緩やかで、酸素がほとんどなく、地温が高すぎず、トンネルを掘削できる強度を持つなどの特性を備えた、十分な広がりのある岩盤に設置すると説明しています。さらに隆起や侵食なども考慮します。[NUMO・地層処分の深さと条件]

したがって、「霞が関の地下500メートルなら深いから安全」「常陸大宮市の地下500メートルなら安全」と地名と深さだけで判断することはできません。候補地点ごとに地下環境を詳しく調査する必要があります。

地層処分の安全性は「場所を選ぶこと」まで含めて成立する

「安全ならどこに造ってもよいはず」という疑問には、地層処分でいう安全性の意味を整理すると答えが見えてきます。地層処分は、処分する物そのものを工学的に封じ込める「人工バリア」と、適切な岩盤という「天然バリア」を組み合わせる考え方です。

NUMOは、火山活動によって処分場が破壊されないこと、大きな断層のずれを避けること、隆起・侵食によって将来処分場が地表へ近づくことを避けること、地温や岩盤強度などを考慮することを立地選定の重要な要素として示しています。[NUMO・地層処分で考慮する要素]

つまり「地層処分は安全」という説明は「日本の地下なら無条件で安全」という意味ではなく、「適切な場所を選び、適切に設計・施工・処分することで長期的な安全性を確保する」という考え方です。この違いは非常に重要です。

東京そのものが最初から候補対象外というわけではない

一方、「国は東京だけ最初から対象外にしている」と理解するのも正確ではありません。2017年に国が公表した科学的特性マップは全国を対象としており、東京都も含まれています。[NUMO・科学的特性マップ]

実際、東京都内では2026年現在、小笠原村で地層処分に関する文献調査が実施されています。NUMOも現在の文献調査地域として北海道、佐賀県、東京都を挙げています。したがって「東京という都道府県だから候補にならない」という制度ではありません。[NUMO・地層処分の調査状況]

ただし、同じ東京都でも都心23区と小笠原村では地質、人口密度、土地利用、輸送条件などがまったく異なります。「東京都が対象になり得る」ことと「霞が関の地下が適地である」ことは別問題です。

霞が関や永田町の地下が適地かどうかは住所だけでは判断できない

地層処分地を選ぶために国が公表している科学的特性マップでは、火山・火成活動、断層活動、隆起・侵食、地熱活動、火山性熱水・深部流体、鉱物資源、地盤、輸送など複数の条件が検討されています。[NUMO・科学的特性マップの個別条件]

しかも科学的特性マップは200万分の1という広域的な地図です。NUMO自身も、ある場所が本当に地層処分に適しているかを判断するには現地調査が必要だと説明しています。[NUMO・科学的特性マップの位置付け]

そのため、霞が関、永田町、東京電力本社周辺などについても、単に「地下があるから建設可能」とは判断できません。反対に、科学的な詳細調査を行わず「東京だから絶対に地層処分できない」と断言することも適切ではありません。

実は地層処分場は想像以上に巨大な施設

「地下深くに造るなら土地問題はあまり発生しない」というイメージがありますが、NUMOが想定する処分施設は非常に大規模です。

NUMOによると、深度1,000メートルの結晶質岩中に施設を建設する例では、地上施設だけで約1~2平方キロメートル、地下施設は約6~10平方キロメートルになると見込まれています。地下には4万本以上のガラス固化体などを埋設する計画です。[NUMO・地層処分施設の規模]

別のNUMO資料では、地下坑道の総延長は200~300キロメートル程度と想定されています。地上施設には高レベル放射性廃棄物の受入・封入・検査施設、管理棟、掘削土置き場などが必要です。[NUMO・地層処分施設の概要]

リニア品川駅と地層処分場は「地下施設」という以外かなり違う

リニア中央新幹線の大深度地下施設を見て、「東京でも地下深くに巨大施設を造れるのだから、地層処分場も同じでは」と考えるのは自然です。しかし両者には根本的な違いがあります。

鉄道トンネルや地下駅は、人間が利用する期間に必要な構造安全性や耐震性などを確保して運用する交通インフラです。それに対して地層処分は、放射性物質を人間の生活環境から非常に長期間隔離することが目的です。

そのため地層処分では「地下空間を掘れるか」だけでなく、将来の火山・断層活動、隆起・侵食、地下水の流動、地温、岩盤などが長期的な安全評価に関係します。リニアを建設できる岩盤だから高レベル放射性廃棄物も処分できる、という関係にはなりません。

「地下だから地上の土地はいらない」わけでもない

地下鉄であれば地上の駅入口が比較的小さく見えるため、地層処分場についても似たイメージを持つかもしれません。しかし地層処分事業では、大量の岩石を掘削し、廃棄物を受け入れ、検査し、オーバーパックへ封入し、緩衝材を製作して地下へ搬送する必要があります。

特に処分坑道を掘削すれば大量の掘削土が発生します。NUMOによると、地上施設の中で多くの面積を占めるのは、地下掘削によって生じる土砂などの保管場所です。[NUMO・地上施設の用途]

したがって、超高密度に建物・道路・地下鉄・鉄道・上下水道・通信・電力などが集積する東京都心であれば、「地下だけ利用すれば土地問題はほぼない」と単純にはいえません。

輸送の問題も立地選定に関係する

地層処分場には、高レベル放射性廃棄物を安全に運び込む必要があります。そのため国の科学的特性マップでは、地質条件だけではなく輸送条件も考慮されています。

資源エネルギー庁は、好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い地域のうち、海岸からの距離が短い範囲を「輸送面でも好ましい地域」としています。[資源エネルギー庁・科学的特性マップと輸送]

NUMOも、安全上、陸上輸送にかかる時間や距離は短いほうが好ましいという考え方を示しています。つまり「最も電気を消費する場所の地下へ埋める」という公平性の議論と、「どこが技術的・安全上適切な処分地点なのか」という立地選定は別々に考える必要があります。

東京電力やJ-POWERの本社地下なら責任の取り方として公平では?

これは地質学だけでは答えられない、社会的・倫理的な問いです。「原子力発電の恩恵を受ける大都市圏ではなく地方に負担を求めるのは公平なのか」という問題提起には、地層処分政策を考えるうえで重要な意味があります。

一方、最終処分場は「責任を負うべき企業の所在地」から選ぶ制度にはなっていません。最終処分法に基づきNUMOが処分主体となり、文献調査、概要調査、精密調査という段階的な調査を経て施設建設地を選定します。[NUMO・文献調査と処分地選定]

例えば「電力会社が責任を負うべきだから本社直下へ埋める」と決めても、そこに処分に適した岩盤が存在しなければ、長期安全性という本来の目的と矛盾します。責任や公平性の議論は必要ですが、最終的な地下施設の場所は科学的適性を無視して決めることはできません。

「安全なら東京に造れるはず」という疑問には重要な論点もある

とはいえ、この疑問を単に「東京は地質的に不適切だから」で終わらせるのも適切ではありません。科学的特性マップは全国を対象としており、国自身も日本国内に地層処分に適した地下環境が広く存在するとの見通しを示しています。[NUMO・日本で地層処分は可能か]

そのため「なぜ大都市圏も含めて比較しないのか」「電力の大量消費地はどのような責任を負うべきか」「経済的に弱い自治体へ交付金を提示する制度は公平なのか」といった社会的な議論は残ります。

「東京に造らない=地層処分は危険」という結論にはなりませんが、「安全性だけでなく地域間の公平性も説明すべきだ」という問題提起には検討する価値があります。技術的安全性と社会的公正は、別々の軸として議論する必要があります。

常陸大宮市はすでに「適地」と判定されたわけではない

常陸大宮市についても、「国が文献調査を申し入れた=東京より安全な処分地だと証明された」と理解するのは早すぎます。科学的特性マップは、既存の全国データを一定の基準で整理した大まかな地図にすぎません。

NUMOは、科学的特性マップについて「個々の地点が処分地に必要な条件を満たすかどうか」は三段階の調査で確認する必要があり、調査結果によっては地層処分に適さないと評価される可能性もあると説明しています。[資源エネルギー庁・科学的特性マップQ&A]

文献調査は地質図や学術論文など既存の資料を調べる机上調査であり、ボーリングなどの現地作業は行いません。NUMOも、文献調査そのものは自治体に処分場の受け入れを求めるものではないと明記しています。[NUMO・文献調査の位置付け]

「東京に造らない理由」を整理するとどうなる?

よくある疑問 実際の考え方
地下300mならどこでも安全? 違う。火山、断層、地下水、地温、岩盤、隆起・侵食などの条件が重要
東京は最初から対象外? 東京都も科学的特性マップの対象。東京都小笠原村では文献調査も実施
霞が関の地下なら造れる? 詳細な地質調査なしに適地とは判断できない
地下施設だから地上用地はいらない? 地上約1~2平方キロメートルという施設例が示されている
地下施設は小さい? NUMOの例では地下約6~10平方キロメートル、坑道総延長200~300km程度
リニアを造れるなら処分場も造れる? 必要とされる長期安全性と地質条件が異なる
電力会社本社の地下にすべき? 公平性の論点にはなるが、科学的適性を無視して場所を決めることはできない

こうして整理すると、「危険だから東京を避けて地方へ押し付けている」という一つの理由だけで現在の立地選定制度を説明することはできません。一方で、地方自治体と大都市圏の負担の公平性という政策上の議論がなくなるわけでもありません。

地層処分の安全性と「誰が負担するのか」は分けて考える必要がある

地層処分問題には、大きく二つの問いがあります。一つは「放射性廃棄物を長期間安全に隔離できる場所はどこか」という科学・工学上の問いです。もう一つは「原子力発電によって生じた廃棄物の負担を誰が引き受けるべきか」という社会・倫理上の問いです。

前者については、地質条件を調査して適切な地点を選ばなければなりません。後者については、大都市の電力消費者、電力会社、国、原子力発電所立地地域、最終処分候補地域、将来世代などの間で、どのように責任を分担するかという議論になります。

この二つを混同すると、「安全なら国会議事堂の地下に埋めろ」「東京に埋めないのだから危険に違いない」という議論と、「東京は人口が多いから絶対に候補にできない」という議論がぶつかるだけになってしまいます。科学的適性と社会的公平性の双方を検証することが重要です。

まとめ:地層処分は「深ければどこでも安全」ではなく、東京も制度上完全除外ではない

高レベル放射性廃棄物の地層処分について、「安全なら霞が関や永田町、電力会社本社の地下に造ればよい」という疑問を考える際、最も重要なのは地層処分の安全性は「地下300メートル以上」という深さだけでは成立しないという点です。

処分地には火山・断層・隆起や侵食・地熱・地下水・岩盤強度などについて適切な条件が必要です。そのため「国の施設だから霞が関」「責任があるから電力会社本社」という理由だけで処分地を決めることは、長期安全性を優先する現在の考え方とは一致しません。

また地層処分場はリニアの地下駅とは規模も目的も異なります。NUMOが示す一例では地上施設だけで約1~2平方キロメートル、地下施設は約6~10平方キロメートルに及びます。「地下施設だから地上の土地はほとんど不要」という施設ではありません。

一方、東京が制度上最初から除外されているわけでもありません。科学的特性マップは東京都を含む全国を対象としており、実際に東京都小笠原村では文献調査が行われています。したがって「東京では絶対に地層処分をしない」という単純な制度ではありません。

そして常陸大宮市についても、文献調査の対象になることと最終処分地に適していることは同義ではありません。文献調査、概要調査、精密調査を通じて具体的な地下環境を調べて初めて適性が検討されます。

結局のところ、「なぜ東京ではないのか」という問いには、技術的には「場所ごとの地質条件と施設規模を調べなければならない」、社会的には「大都市と地方の負担をどう公平にするのかという議論は残る」という二つの答えがあります。地層処分の安全性への疑問と、地方だけが負担を引き受けることへの疑問は分けて検証することが、この問題を正確に理解するためのポイントです。

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