尊属殺人罪はなぜ廃止された?親を殺害した事件で現在の刑法が適用される理由を解説

事件、事故

親が被害者となる殺人事件が報道されると、「昔なら尊属殺人罪が適用されたのではないか」「なぜ現在は通常の殺人罪として扱われるのか」と疑問を持つ人も少なくありません。かつて日本には、父母や祖父母など直系尊属を殺害した場合に、通常の殺人罪より重く処罰する規定が存在しました。

しかし、現在では尊属殺人罪は刑法から削除されています。この記事では、尊属殺人罪とはどのような制度だったのか、なぜ廃止されたのか、そして現在の親族間殺人事件ではどのような考え方で刑罰が決められるのかを解説します。

尊属殺人罪とはどのような犯罪だったのか

尊属殺人罪とは、自分の父母や祖父母など「尊属」にあたる人物を殺害した場合に、通常の殺人罪よりも重い刑罰を科す制度でした。旧刑法第200条に規定されており、刑罰は死刑または無期懲役のみとされていました。

一般的な殺人罪では、当時は死刑・無期懲役・3年以上の有期懲役が刑罰として定められていました。そのため、親などを殺害した場合は法律上、より厳しい扱いを受ける仕組みになっていました。

この制度の背景には、親子関係や家族秩序を重視する戦前の家制度的な考え方がありました。親を敬うべき存在として特別に保護するという価値観が法律にも反映されていたのです。

尊属殺人罪が廃止されるきっかけとなった事件

尊属殺人罪のあり方が大きく議論されるきっかけとなったのが、いわゆる「尊属殺重罰規定違憲判決」の対象となった事件です。

この事件では、長期間にわたる父親からの虐待や性的被害を受けていた女性が、父親を殺害したとして尊属殺人罪に問われました。最高裁判所は1973年、この事件について尊属殺人罪の規定自体は違憲とはしなかったものの、刑罰があまりにも厳しく、憲法14条の法の下の平等に反する可能性があると判断しました。

その後、社会の価値観の変化もあり、1995年の刑法改正によって尊属殺人罪の規定は削除されました。現在では、被害者が親であっても、基本的には通常の殺人罪として扱われます。

現在の法律では親を殺害した場合はどう扱われるのか

現在の刑法では、親族を殺害した場合でも特別な「尊属殺人罪」という犯罪類型はありません。そのため、母親や父親を殺害した場合も刑法199条の殺人罪が適用されます。

ただし、「親を殺害した」という事情が刑罰にまったく影響しないわけではありません。裁判では、犯行の動機、計画性、犯行態様、被害者との関係、犯行後の態度など、さまざまな事情を総合的に判断して量刑が決められます。

例えば、長年の虐待や介護疲れなど特殊な事情がある場合と、財産目的など身勝手な動機による場合では、同じ親族間殺人でも裁判所の評価は大きく異なります。

「親を殺した場合は特別に重く処罰すべき」という考え方について

尊属殺人罪の復活を求める意見が出ることがあります。その理由としては、「親を殺す行為は家族関係を破壊する重大な犯罪であり、通常より重く処罰すべき」という考えがあります。

一方で、現在の刑法では、被害者との血縁関係だけで刑罰を一律に重くすることには慎重な考え方が取られています。家庭内には、虐待、支配、介護問題、経済的問題など複雑な事情が存在するため、個別の事情を考慮する必要があると考えられているためです。

つまり現在の法律では、「親だから必ず重い刑にする」という考え方ではなく、「なぜその事件が起きたのか」という背景を含めて判断する仕組みになっています。

近年の親族間殺人事件を見る時に重要な視点

親族間で起きた殺人事件では、被害者と加害者の関係だけを見ると単純に感じられることがあります。しかし、実際には長期間の家族関係、生活状況、精神的な負担など、多くの要素が関係しています。

そのため、報道された事件について考える場合も、「親を殺したから昔の法律なら重罪だった」という視点だけではなく、現在の刑法がなぜ個別事情を重視しているのかを理解することが大切です。

法律は社会の価値観によって変化します。かつては家族内の上下関係を重視していた刑法も、現在では個人の尊厳や平等という考え方を重視する方向へ変化しています。

まとめ|尊属殺人罪は廃止され現在は殺人罪として判断される

尊属殺人罪は、親などの直系尊属を殺害した場合に特別に重い刑罰を科す制度でしたが、現在は廃止されています。

現在の日本では、親を殺害した場合でも基本的には通常の殺人罪として扱われます。ただし、親族関係や犯行に至った背景は裁判で重要な判断材料となります。

尊属殺人罪がなくなった理由は、親族間の犯罪を軽く見るためではなく、一律の血縁関係だけで刑罰を決めるのではなく、事件ごとの事情を公平に判断するためです。

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