SMR(小型モジュール炉)は内陸にも建設できる?冷却水の必要量・空冷・立地条件をわかりやすく解説

原子力

SMR(Small Modular Reactor、小型モジュール炉)は、従来の大型原子炉より出力が小さく、自然循環や受動安全系を取り入れやすいことから、立地の自由度が高まると期待されています。そのため、SMRだから海岸にしか建設できないということはなく、設計によっては内陸部への建設も十分可能です。

ただし、ここで注意したいのは「原子炉を冷やす水」と「発電後の余熱を外へ捨てるための冷却」を分けて考えることです。水冷式SMRでは原子炉内部に水を使う設計が多く、さらに蒸気タービンで発電する場合は復水器から大量の熱を外部へ逃がす必要があります。その熱を海水で捨てるのか、河川・湖水を使うのか、冷却塔で空気へ逃がすのかによって必要な立地条件が変わります。

つまり、内陸に原発を建てられるかどうかを決めるのは「SMRか大型炉か」だけではなく、出力、炉型、発電方式、冷却方式、利用可能な水源、気候、安全上の最終ヒートシンクなどの組み合わせです。ここではSMRと冷却水の関係を順番に整理します。

そもそも従来型原発も「海の近くでなければ建てられない」わけではない

日本では原子力発電所の多くが海岸沿いに建設されているため、「原発には海が必須」という印象があります。しかし世界を見ると、内陸に建設された原子力発電所は多数あります。

原子力発電所で大量の水が必要になる最大の理由は、一般に原子炉そのものを直接冷やすためだけではなく、タービンを回した後の蒸気を復水器で水へ戻す際に大量の余熱を捨てる必要があるためです。米国原子力規制委員会(NRC)も、原子力発電所における水利用の大部分が復水器での余熱除去に使われ、必要量は発電所の出力などに左右されると説明しています。[参照]

海岸なら大量の海水を一度通して海へ戻す「一過式冷却」を採用しやすいため、日本では沿岸立地が合理的でした。しかし内陸では、河川、湖、貯水池、冷却塔などを利用できます。

内陸の原発では冷却塔がよく使われる

大量の海水を利用できない内陸では、冷却塔を使って水を循環させる方式が代表的です。復水器で温まった水を冷却塔へ送り、一部を蒸発させることで熱を大気へ逃がし、冷えた水を再び使います。

IAEAの原子力発電所冷却に関する資料では、海・大河川・大きな湖などが利用できる場合は一過式冷却が可能で、十分な水量がない場合には冷却塔による循環冷却を利用できると説明されています。さらに、水の使用量を減らすため乾式冷却や湿式・乾式のハイブリッド冷却も選択肢になります。[参照]

同資料には、インドなどの内陸原子力発電所で冷却塔が利用されている例も掲載されています。つまり大型原子炉であっても、海なしの内陸立地そのものは技術的に可能です。

SMRとは「冷却水を使わない原子炉」という意味ではない

SMRは一般に電気出力300MW以下程度の小型原子炉で、工場でモジュールを製造し、現地で組み立てることを想定した設計です。IAEAはSMRについて、水冷炉、高温ガス炉、液体金属冷却高速炉、溶融塩炉など複数の技術系統があると整理しています。[参照]

したがって「SMR」という言葉は炉の大きさやモジュール化の考え方を示すもので、「空冷炉」「水を使わない炉」という意味ではありません。

例えばBWRX-300などは約300MWの水冷式SMRです。米NRCもBWRX-300を「water-cooled, natural circulation SMR」と説明しています。[参照]

SMRは大型炉より冷却条件を緩和しやすい

SMRの大きな利点の一つは、1基あたりの熱出力が小さいことです。発電量が小さければ、原則として最終的に環境へ捨てなければならない熱量も小さくなります。

日本原子力研究開発機構(JAEA)はSMRについて、従来の1,000MWを超える大型炉に対して300MW以下の小型炉であり、「小型で低出力」であることを利用して自然に冷えるなどの固有・受動安全性を高められると説明しています。また立地上の制約を大幅に緩和できる可能性も挙げています。[参照]

資源エネルギー庁も、小型炉では体積に対する表面積が大きくなり、大型炉より熱を逃がしやすくなるという特徴を紹介しています。[参照]

「自然循環で冷える」と「発電所が水不要」は別の話

SMRの説明では「ポンプなしで自然循環冷却できる」「外部電源なしで炉心を冷却できる」という表現がよく使われます。これは主に原子炉の安全系についての話です。

例えば資源エネルギー庁は、小型軽水炉SMRについて、小出力を生かした自然循環により冷却ポンプや外部電源なしでも炉心を冷却できるシステムを目指していると説明しています。[参照]

しかし通常運転中に発電しているときは、タービンから出てくる大量の余熱を最終的に環境へ逃がさなければなりません。この「通常時の熱排出」と「事故時に炉心を安全に冷却する機能」は別なので、自然循環型SMRでも発電所全体として何らかの熱の捨て場所は必要です。

SMRなら空冷を利用して水使用量を大幅に減らせる場合がある

内陸立地で特に注目されるのが「乾式冷却(ドライクーリング)」です。巨大なラジエーターのような設備を使い、水ではなく主に空気へ熱を逃がします。

NuScaleは2026年の説明で、自社SMRについて乾式冷却を選択でき、湿式冷却塔と比較して水消費量を90%以上減らせるとしています。これにより水資源が乏しい地域でも立地しやすくなると説明しています。[参照]

IAEAのSMR関連会議でも、ヨルダンのような乾燥した内陸地域へSMRを導入するため、乾式冷却を利用する研究が報告されています。[参照]

空冷なら完全に水が不要になる?

乾式冷却を採用すれば復水器系の水消費を大幅に減らせますが、「発電所全体で水を一滴も使わない」という意味ではありません。

原子炉タイプによっては炉内の冷却材として水を使いますし、補給水、化学管理、設備洗浄、消防設備、使用済み燃料管理、生活用水などにも水が必要になる場合があります。

したがって乾式冷却SMRは「大量の海水や河川水へ依存しなくてもよい可能性がある」と表現するのが正確です。

空冷にはデメリットもある

水を減らせる乾式冷却にも欠点があります。最大の問題は、空気は水ほど効率よく熱を運べないことです。

特に真夏の気温が高い日は熱を捨てにくくなり、復水器の性能が下がって発電効率や最大出力が低下する場合があります。また巨大な空冷設備やファンが必要になり、建設費や補機電力が増える可能性もあります。

そのため、水が十分ある場所では湿式冷却のほうが経済的なこともあります。立地ごとに水資源、気温、建設費、発電効率を比較して方式を選びます。

水冷式SMRでも内陸に設置できる

水冷式SMRだから海岸立地しかできないわけでもありません。小規模な河川・湖・貯水池と冷却塔を組み合わせたり、再生水を利用したりする方法があります。

NRCは原発の最終ヒートシンクについて、海・川・湖だけでなく、専用の池、スプレーポンド、冷却塔などを利用できるとしています。[参照]

つまり内陸SMRでは「水がないから不可能」というより、そのサイトで通常運転時と事故時の両方について必要な熱を確実に逃がせるかが審査上の重要ポイントになります。

高温ガス炉なら原子炉の一次冷却材に水を使わない

SMRには軽水炉以外の方式もあります。例えば高温ガス炉では、原子炉の一次冷却材としてヘリウムガスを使用します。

JAEAが茨城県大洗町で運転している高温工学試験研究炉HTTRは、一次冷却材にヘリウムを使用する高温ガス炉です。JAEAは、冷却材流量を失った状態でも温度変化が緩慢であることを試験で確認しています。[参照]

このような炉型は軽水炉より水への依存を減らせる可能性があります。ただし発電を蒸気タービンで行う設計なら、その蒸気サイクル側の熱を捨てる設備は依然として必要になります。

ナトリウム冷却高速炉も内陸立地が可能

液体金属を使うSMR・先進炉もあります。代表例が米TerraPowerの「Natrium」です。これは一次冷却材に液体ナトリウムを使う高速炉で、一般的な軽水炉のように一次系を高圧にする必要がありません。

TerraPowerの実証炉は米国ワイオミング州ケメラーに計画されており、完全な内陸地域です。米NRCは2026年3月9日、Kemmerer Power Station Unit 1の原子炉建設許可を発給しました。[参照]

この実例だけを見ても、「次世代の小型・先進原子炉は海岸でなければ建設できない」というわけではないことが分かります。

内陸立地では地震以外にも「水不足」を評価する

内陸原発では、洪水だけでなく渇水も安全評価の対象になります。河川水へ依存する発電所の場合、大干ばつで水位が低下すると冷却能力へ影響する可能性があるからです。

IAEAの原子力施設立地ガイドラインでも、冷却水へのアクセス条件が立地点評価の重要項目に含まれており、内陸河川の洪水、ダム破損なども評価対象になっています。[参照]

逆に海岸立地では津波、高潮、海水温上昇など別の問題があります。「海なら安全、内陸なら危険」という単純な関係ではありません。

SMRの立地点を決めるのは冷却水だけではない

原子力発電所の立地では、冷却方式以外にも多数の条件を確認します。地震活動、活断層、地盤、洪水、火山、竜巻、森林火災などの自然条件が重要です。

さらに周辺人口、避難計画、送電網への接続、道路・鉄道などの輸送手段、建設用水、消防水、使用済み燃料の管理なども検討されます。

SMRは小型化によって一部の条件を緩和できる可能性がありますが、どこにでも自由に置ける発電設備になるわけではありません。原子力施設として厳格な安全審査を受ける必要があります。

大型炉とSMRの内陸立地を比較

項目 大型軽水炉 SMR
1基あたり出力 約1000MW級が一般的 300MW以下が目安
捨てる必要がある熱量 大きい 1基あたり小さい
海岸立地 一過式冷却を使いやすい 可能
内陸立地 冷却塔・河川・湖などで可能 比較的柔軟に検討可能
乾式空冷 技術的に可能だが設備大型化 採用しやすい設計もある
自然循環安全系 設計による 多くの新型設計で重視
一次冷却材 主に水 水、ガス、液体金属、溶融塩など多様

この比較からも、SMRの強みは「水が不要」ではなく、小出力と新しい冷却・安全設計によって選択できる立地点が増える可能性があることだと分かります。

SMRを複数基並べたら結局大量の冷却が必要になる

SMRについてもう一つ注意したいのが、モジュールを多数設置するケースです。例えば300MW級SMRを3基設置すれば、発電所全体では約900MWとなり、大型炉1基に近い出力になります。

発電効率が同程度なら、最終的に捨てる必要のある熱量もそれに応じて増えます。そのため「SMRなら何十基並べても少量の水で済む」というわけではありません。

SMRは需要に応じて1基ずつ増設できることに利点がありますが、大規模サイトでは冷却設備も発電容量に合わせて大型化する必要があります。

内陸SMRが向いている可能性がある場所

内陸SMRが検討されやすい場所として、既存の石炭火力発電所跡地があります。すでに送電網、道路、産業用地、場合によっては冷却設備や水利権が整っているためです。

実際、米国ワイオミング州のNatriumプロジェクトも、石炭火力発電地域のエネルギー転換と関係するプロジェクトです。

また鉱山、データセンター、大規模工場、地域熱供給など、海岸から離れた大口需要地の近くへ小型炉を配置できれば、長距離送電を減らせる可能性もあります。

日本で内陸SMRがすぐ建設されるとは限らない

技術的に可能であることと、日本国内で実際に内陸SMRが建設されることは別問題です。2026年8月時点で、日本では商用SMRが運転しているわけではなく、次世代革新炉について研究開発や海外プロジェクトへの参画が進められている段階です。

資源エネルギー庁はSMRとしてGE日立のBWRX-300やNuScaleなどを次世代炉の例として紹介していますが、経済性や実用化、規制などを課題として挙げています。[参照]

日本国内で内陸型SMRを建設する場合にも、原子炉等規制法に基づく審査、地震・火山・洪水などの評価、地域社会との調整などが必要になると考えられます。

まとめ:SMRなら内陸建設は可能。ただし「冷却不要」ではない

SMRは海岸にしか建てられない原子炉ではありません。むしろ、小型・低出力であることや自然循環・乾式冷却などを利用できることから、従来の大型炉より内陸立地の選択肢を広げられる可能性があります。

また、従来型原発についても海が絶対条件ではありません。世界には河川、湖、冷却塔を利用した内陸原子力発電所が多数あります。日本で海岸立地が多いのは、大量の海水を冷却に利用しやすいという地理的・経済的理由が大きいと考えられます。

SMRについては、水冷式のBWRX-300のような炉もあれば、ヘリウムを使う高温ガス炉、液体ナトリウムを利用する高速炉などさまざまです。さらに復水器を乾式空冷にすれば、水消費量を大幅に減らすこともできます。

ただし、原子力発電では発生した熱を最終的にどこかへ逃がす必要があるという物理法則そのものはSMRでも変わりません。海、川、湖、冷却塔、空気などのどれを最終的な熱の捨て場所にするかが違うだけです。

したがって最も正確な答えは、「SMRは内陸にも建設できる。特に小出力や乾式冷却などによって水源への依存を減らせる設計もある。ただし炉型・発電方式によって必要な水量は大きく異なり、通常運転時と事故時の双方で確実に熱を逃がせる立地・冷却設備が必要」というものになります。

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