電気自動車(EV)の普及が進むと、将来的にガソリン需要が大幅に減少する可能性があります。そこで気になるのが、石油会社や製油所がどのように対応するのかという点です。原油からガソリンだけを作っているわけではないため、「精製すればガソリンもできるのだから、需要がなくなっても販売され続けるのではないか」と考える人もいるでしょう。
しかし、実際の石油精製は単純に原油を分離して、できた製品をすべてそのまま販売する仕組みではありません。製油所では市場の需要に応じて原油処理量を調整するとともに、分解・改質などの工程によって製品構成を変えています。
ガソリン需要が長期的に減れば、石油会社はガソリンを余らせながら同じ量の原油を精製し続けるのではなく、製油所の稼働率や能力を調整し、石油化学原料など需要が見込める分野への転換を進めると考えるのが基本です。ここでは、その理由を原油精製の仕組みから順番に解説します。
- 原油からガソリンだけが作られているわけではない
- 「原油を精製するとガソリンが必ずできる」は半分正しい
- ガソリン需要が減れば、まず原油処理量そのものを調整できる
- ガソリンだけ需要が減った場合は製品構成を変える
- 余ったガソリンを海外へ輸出する選択肢もある
- 石油化学原料へのシフトも重要になる
- 製油所そのものを別用途へ転換する可能性もある
- ガソリンスタンドも「ガソリンだけを売る場所」ではなくなる
- EVが増えてもガソリン需要が突然ゼロになるわけではない
- ガソリン車が少数になるとガソリン価格は安くなるとは限らない
- 完全にガソリン需要がなくなったらどうなるのか
- 石油会社は「石油を売る会社」から変化していく
- まとめ:ガソリン需要が減れば石油会社は生産量と事業そのものを変える
原油からガソリンだけが作られているわけではない
原油は多数の炭化水素などからなる混合物です。製油所では最初に常圧蒸留装置などを使い、沸点の違いによってLPG、ナフサ、灯油、軽油、重質な留分などに分けていきます。
ガソリンは、こうして得られた留分や、さらに分解・改質などの工程を経て得られる複数の基材を調合し、製品規格を満たすように製造されます。したがって、原油を蒸留しただけで自動的に完成品の自動車用ガソリンが一定割合で出来上がる、という理解は正確ではありません。
また原油から得られるものには、自動車用燃料以外にも航空燃料、軽油、LPG、石油化学原料、潤滑油やアスファルトなどがあります。原油精製を考える際には、この複数製品を同時に扱う産業であることが重要です。
「原油を精製するとガソリンが必ずできる」は半分正しい
原油を蒸留すればガソリンに利用できる軽質留分が得られるため、「原油を精製する以上、ガソリン系の成分は発生する」という説明には一定の根拠があります。しかし、そこから「だからガソリン需要がなくなっても現在と同じ量を販売し続ける」という結論にはなりません。
現代の製油所には、流動接触分解装置や水素化分解装置、接触改質装置などさまざまな設備があります。重い留分をより軽い製品へ転換したり、成分を改質したりすることで、市場が必要とする製品を効率よく製造しています。
つまり製油所は、原油から自然に分離された割合をそのまま商品構成として受け入れているわけではありません。原油の種類、設備構成、製品価格、需要などに合わせて、ある程度製品の得率を変えられる産業設備なのです。
ガソリン需要が減れば、まず原油処理量そのものを調整できる
仮にEVが普及して自動車用ガソリンの販売量が大幅に減少した場合、石油会社が需要のないガソリンを延々と生産して在庫に積み上げる合理性はありません。余剰在庫は保管コストがかかり、販売価格の下落にもつながるためです。
対応策の一つは、製油所の原油処理量や設備の稼働率を下げることです。石油製品全体の国内需要が縮小するのであれば、必要な生産能力自体も小さくなります。
さらに長期的な需要減少が見込まれる場合には、効率の低い設備や製油所を統廃合するという経営判断も考えられます。実際、石油需要が縮小してきた日本では、石油元売各社による製油所・精製能力の再編が長年進められてきました。
ガソリンだけ需要が減った場合は製品構成を変える
もう少し複雑なのが、「石油そのものは必要だが、自動車用ガソリンだけ需要が急減する」というケースです。この場合、石油会社には製品構成を市場需要へ近づける必要があります。
例えば航空機が液体燃料を引き続き必要とするならジェット燃料には需要が残ります。物流分野の電動化が乗用車より遅ければ軽油需要も一定期間残る可能性があります。また石油化学産業では、燃料として燃やすのではなく、さまざまな化学製品の原料として炭化水素が利用されています。
ただし、どの製品へでも自由自在に100%転換できるわけではありません。製油所ごとに設備構成が異なり、転換には設備投資やエネルギーが必要です。製品ごとの需要バランスが大きく変われば、既存設備では採算が取れなくなる製油所も出てきます。
余ったガソリンを海外へ輸出する選択肢もある
ある国でガソリン需要が減っても、世界全体で同時に需要がゼロになるとは限りません。EVへの移行速度は国や地域によって異なるため、国内で余剰となった石油製品を需要のある海外市場へ輸出するという選択肢があります。
例えば国内需要が100から70へ減ったとしても、海外で商品として売れるなら製油所の生産を直ちに70まで落とす必要はありません。輸送費を含めても利益が出る価格で販売できるなら、輸出は余剰処理ではなく通常の事業になります。
一方、世界全体でガソリン需要が減少すれば輸出先も縮小します。その段階では価格競争が激しくなり、競争力の低い製油所から生産縮小や設備転換を迫られることになります。
石油化学原料へのシフトも重要になる
「石油需要」と「ガソリン需要」は同じものではありません。EVはガソリンを必要としませんが、それだけで社会から石油由来製品がなくなるわけではないからです。
石油化学産業では、合成樹脂、合成繊維、合成ゴムをはじめ、多種多様な製品の原料として炭化水素が使われています。そのため燃料需要が縮小する将来を想定し、燃料中心の製油所から石油化学製品との連携を強めた事業構造へ移行する戦略があります。
ただし石油化学分野にも脱炭素化、資源循環、バイオマス原料への転換といった課題があります。「ガソリンが売れない分をすべてプラスチックにすれば解決する」という単純な話ではありません。
製油所そのものを別用途へ転換する可能性もある
ガソリンを含む石油燃料全体の需要が長期的に縮小すれば、既存製油所の役割そのものが変化します。石油会社にとって重要なのは、現在所有している巨大な設備、港湾、タンク、物流網、販売網などを次のエネルギー事業にどう活用するかです。
例えば企業によっては、SAF(持続可能な航空燃料)、バイオ燃料、水素、合成燃料、再生可能エネルギー、蓄電池関連事業などを将来の事業領域として位置付けています。
製油所の設備をそのまま別の燃料工場として使えるとは限らず、大規模な改造や新規投資が必要になる場合があります。それでも土地、港湾設備、タンク、配管、エネルギー供給設備など既存の産業インフラを活用できることは大きな利点です。
ガソリンスタンドも「ガソリンだけを売る場所」ではなくなる
EV普及の影響を直接受けるのは製油所だけではありません。ガソリンスタンドも、ガソリン販売量が減れば従来と同じビジネスモデルを維持しにくくなります。
そこで考えられるのが、EV充電、カーシェア、レンタカー、洗車、整備、物販などを組み合わせたサービス拠点への転換です。すでに石油元売会社は、従来の給油所以外のサービスを含む事業モデルを展開しています。
ただしEV充電は給油より時間がかかるなど利用形態が異なります。家庭で充電できる利用者もいるため、「すべてのガソリンスタンドがそのまま充電スタンドへ変わる」と考えるのも単純化しすぎです。立地条件によって残る店舗と役割を変える店舗が分かれていく可能性があります。
EVが増えてもガソリン需要が突然ゼロになるわけではない
ここで注意したいのが、新車販売に占めるEVの割合と、道路を走っている自動車全体に占めるEVの割合は別だという点です。
仮にある時点から新車の多くがEVになったとしても、それ以前に販売されたガソリン車やハイブリッド車はその後も何年も利用されます。そのためガソリン需要は通常、ある日突然消滅するのではなく、車両の入れ替わりに伴って段階的に減少します。
さらに地域によってEV普及率は異なります。世界的なガソリン需要の変化も一様ではないため、石油会社には設備や事業を転換するための一定の移行期間が生じると考えられます。
ガソリン車が少数になるとガソリン価格は安くなるとは限らない
需要が減れば「ガソリンが余って安くなる」と考えたくなります。短期的には需要低下が価格を押し下げる要因になり得ますが、長期的には必ずしもそうとは限りません。
需要減少に合わせて製油所やガソリンスタンドが減れば、供給能力も縮小します。販売数量が少なくなっても、設備維持、輸送、人件費など一定のコストは残ります。
例えば人口の少ない地域でガソリン車が少数だけ残った場合、販売量が減ったことで店舗維持が難しくなり、給油できる場所が遠くなる可能性があります。将来のガソリン車にとって問題になるのは、単純な価格だけでなく供給網の密度かもしれません。
完全にガソリン需要がなくなったらどうなるのか
極端な仮定として、世界中で自動車用ガソリンの需要がほぼゼロになったとします。その場合、企業が需要のない完成品ガソリンを大量に製造し続ける理由はありません。
ガソリンを大量に生産することを前提とした設備の運転方法を変更し、原油処理量を減らす、設備を停止する、別の製品を増産する、原料として別工程へ回す、製油所自体を閉鎖・転換するといった対応が必要になります。
「精製工程でガソリン相当の留分が生じること」と「ガソリンという商品を需要がなくても販売し続けること」は別問題です。市場に需要がなければ、企業は生産設備や原料処理量そのものを需要に合わせて変えていきます。
石油会社は「石油を売る会社」から変化していく
EV普及を長期的に見ると、石油会社にとって本質的な問題は余ったガソリンをどう処分するかだけではありません。自動車燃料から得ていた収益が縮小したとき、代わりにどの事業で収益を得るかという経営課題になります。
そのため国内外のエネルギー企業では、電力、再生可能エネルギー、水素、合成燃料、SAF、バイオ燃料、EV関連サービスなどへの投資が進められています。一方で移行速度や採算性には不確実性があり、当面は石油事業と新規事業を並行させる企業が多くなると考えられます。
つまり将来の石油会社は、現在とまったく同じ事業を維持したままガソリンだけを余らせるのではなく、より広い「総合エネルギー企業」へ事業構造を変えていくことが想定されます。
まとめ:ガソリン需要が減れば石油会社は生産量と事業そのものを変える
原油を精製するとガソリンに利用できる軽質成分が得られるため、「原油を精製する限りガソリン系留分が発生する」という説明には一定の意味があります。しかし、それは需要がなくなっても現在と同じ量のガソリンを作り続けなければならないという意味ではありません。
製油所では蒸留だけでなく、分解、改質、調合など多数の工程が使われています。ガソリン需要が減れば、原油処理量の削減、製品得率の調整、輸出、石油化学原料へのシフト、設備の統廃合などによって対応できます。
さらに石油燃料全体の需要が縮小する段階になれば、製油所の閉鎖や転換、SAF・バイオ燃料・水素など別のエネルギー事業への投資が重要になります。ガソリンスタンドについても、給油だけではなくEV充電やモビリティサービスなどを組み合わせた拠点へ変化する可能性があります。
結局のところ、需要のなくなったガソリンを石油会社が永久に作って売り続けるというより、需要減少に合わせて「原油をどれだけ処理するか」「何を製造するか」「どの事業を続けるか」そのものが変わっていくと考えるのが、石油精製という産業の仕組みに即した見方です。


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