台風、豪雨、大雪、地震、津波などの災害が発生したとき、「仕事があるから出勤しなければならない」と考えてしまう人は少なくありません。しかし、災害時の行動は平常時の通勤とは分けて考える必要があります。内閣府は企業の防災について、従業員や顧客の安全を第一に取り組むことを示しており、国土交通省も鉄道の計画運休時にはテレワークや時差出勤などによって移動需要を抑える取り組みを推進しています。
「命を守る行動」とは、何があっても職場へ向かうことではなく、その時点の災害リスクを把握し、危険から離れる・危険な場所へ近づかないという判断を優先することです。一方、医療、消防、警察、インフラなど災害時にも継続が必要な仕事もあるため、「災害なら全員休む」という単純な問題でもありません。
この記事では、災害時に出勤を控えることがなぜ重要なのか、「命を守る行動」とは具体的に何を意味するのか、企業と働く人の双方が平常時から考えておきたいポイントを整理します。
災害時は「出勤すること」自体が危険になる場合がある
災害時には職場が安全でも、そこへ向かうまでの経路が危険になっている場合があります。豪雨なら河川の増水、道路冠水、土砂災害などが考えられ、暴風時には看板、屋根材、樹木などの飛来・転倒も危険要因になります。
大雪では道路の立ち往生や転倒事故、地震では建物や塀の倒壊、落下物、火災などが発生する可能性があります。津波の危険がある地域では、海岸や川の近くから速やかに離れることが重要になります。
つまり「電車が動いている」「車なら行けそう」「会社から休業の連絡がない」といった事情だけでは、安全に出勤できるとは判断できません。自宅から職場までの経路を含めて危険性を考える必要があります。
「命を守る行動」とは具体的に何をすればよいのか
「命を守る行動」という言葉は抽象的に聞こえますが、災害の種類や現在地によって必要な行動は変わります。重要なのは、気象情報や避難情報などを確認し、自分が直面している危険に応じて安全を確保することです。
例えば大雨で土砂災害や洪水の危険性が高まっている場合には、危険な場所にいる人は適切なタイミングで安全な場所へ避難することが重要です。すでに屋外を移動するほうが危険な状況では、その時点でより安全な場所を確保する判断が必要になることもあります。
地震の場合には、揺れている最中に無理に移動するのではなく、まず落下物などから身を守ります。津波のおそれがある地域では、揺れが収まった後に津波情報などを確認し、必要なら高い場所など安全な場所へ避難します。このように「命を守る行動」は災害ごとに異なります。
「会社に行かなければ」という意識が危険を増やすこともある
災害時には「遅刻したら迷惑をかける」「みんな出勤している」「休むと言いづらい」という心理が働きやすくなります。しかし、そのために危険な時間帯へ移動を集中させれば、かえって事故や混乱につながることがあります。
実際、国土交通省は鉄道の計画運休後について、運転再開直後は列車本数が十分ではなく駅への利用者集中による混乱が想定されることから、テレワークや時差出勤などによって輸送需要を抑える取り組みも重要だとしています。[参照:国土交通省「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」]
例えば台風通過直後の午前8時に鉄道が再開したとしても、「8時に動いたから全員すぐ出勤する」となれば駅が極端に混雑します。午前中は在宅勤務にする、午後から出勤するなど勤務開始時間を分散できれば、社会全体の混乱を減らすことにもつながります。
企業側にも「従業員の安全を第一にする」という考え方がある
内閣府の企業防災に関する情報では、「企業は、従業員や顧客の安全を第一に防災活動に取り組まなければなりません」とされています。[参照:内閣府 防災情報のページ「企業防災」]
また、労働安全衛生法第3条では、事業者について、職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならないと規定されています。[参照:厚生労働省 労働安全衛生法]
したがって企業の災害対応は、「営業を止めないこと」だけを目的にするものではありません。従業員・顧客の安全確保、二次災害の防止、重要業務の継続や早期復旧などを総合的に考える必要があります。
災害時の出勤ルールは平常時に決めておくことが重要
災害が発生してから「今日は出勤するのか」と一人ひとりが迷う状態では、判断が遅れます。そのため企業側は、台風・豪雨・大雪などが予測される段階から対応基準を決めておくことが重要です。
例えば「鉄道が計画運休を発表した場合は原則テレワーク」「一定の警報や避難情報が発表された地域の社員は自宅待機」「始業時間を遅らせる」「管理職から連絡が来るまで移動しない」といったルールが考えられます。
国土交通省も計画運休時の企業の取り組みとして、対応マニュアルの整備やテレワークなどの事例を紹介しています。[参照:国土交通省「計画運休時における時差通勤・テレワーク等の企業側の取り組み」]
「電車が止まったら休み」だけでは十分ではない
鉄道の運休は分かりやすい判断材料ですが、鉄道が動いていることと安全に通勤できることは同じではありません。徒歩、自転車、自動車で通勤する人もいるためです。
例えば職場まで電車が通常運転していても、自宅周辺に河川の氾濫や土砂災害の危険が迫っている場合があります。逆に鉄道が運休していても、自宅周辺そのものは安全という場合もあります。
そのため、交通機関だけでなく、自治体の避難情報、気象情報、ハザードマップ、道路状況などを組み合わせて判断することが大切です。
すでに職場にいるときは「すぐ帰る」が安全とは限らない
災害時には「早く家に帰りたい」と考えますが、発生状況によっては職場に留まったほうが安全なことがあります。大規模地震直後などに多数の人が一斉に徒歩で帰宅すると、道路が混雑し、救急・消防などの活動を妨げる可能性もあります。
豪雨や暴風でも同じです。帰宅途中に最も危険な時間帯を迎えるのであれば、安全な建物内で状況が改善するまで待機するほうが適切な場合があります。
「出勤しない」と「すぐ帰宅する」は別の判断です。現在いる場所と移動経路のどちらが安全なのかを確認して行動する必要があります。
災害でも出勤が必要な仕事は存在する
一方で、災害時だから社会全体が完全に休業できるわけではありません。消防、警察、医療、自治体、電気、ガス、水道、通信、交通など、災害時だからこそ必要性が高まる業務があります。
介護施設や病院などでは、利用者や患者の生命を守るため一定の職員が必要になる場合があります。物流、小売なども状況によって地域生活を支える重要な役割を担います。
こうした職種では「全員出勤」か「全員休み」かではなく、必要人員をどう確保するか、危険地域から通勤する職員をどう扱うか、宿泊場所や交代要員をどう準備するかなどをBCP(事業継続計画)の一部として検討することが重要です。
テレワークできない職種ほど事前のルール作りが重要
事務職などは在宅勤務へ切り替えられる場合がありますが、製造、接客、建設、物流など現場でなければ成立しない仕事ではテレワークが難しいことがあります。
だからといって「テレワークできない=危険でも出勤する」とする必要はありません。休業、始業時間の変更、自宅待機、交代勤務など、仕事の特性に合わせた選択肢があります。
特に台風や大雪は地震と異なり、ある程度前から危険性を予測できる場合があります。前日に勤務体制を変更する、必要な作業を前倒しするなど、危険が本格化する前に対応できることもあります。
個人が平常時から確認しておきたいこと
働く側も、災害が発生してから初めて会社のルールを調べるのではなく、平常時に確認しておくと安心です。
- 災害時の出勤・自宅待機ルール
- 会社との緊急連絡方法
- テレワークへの切り替え条件
- 自宅・職場周辺のハザードマップ
- 避難場所・避難経路
- 家族との安否確認方法
- 鉄道が停止した場合の対応
- 職場で待機する場合の備蓄状況
特に「会社から連絡が来ない場合はどうするのか」を確認しておくことが重要です。災害時には通信障害などによって、会社から予定通り連絡できない可能性もあります。
自分の地域で想定されている洪水、津波、土砂災害などのリスクも事前に確認しておけば、緊急時の判断を早められます。
「仕事より命」と「仕事を放棄する」は同じではない
災害時に安全を優先するという考え方は、仕事の責任を軽視することとは異なります。むしろ企業が事前にルールを作り、働く人がそれに沿って安全に行動できる仕組みを整えることが重要です。
危険な状況でも社員が自己判断で無理に出勤する職場より、「この条件なら自宅待機」「この条件ならテレワーク」と基準が明確な職場のほうが、従業員も管理者も判断しやすくなります。
そして安全が確保された後に必要な業務を再開する仕組みまで考えることが、本来の防災や事業継続につながります。
まとめ:命を守る行動には「危険なときは移動しない」という選択も含まれる
災害時の「命を守る行動」は、特定の一つの行動を意味するものではありません。災害の種類、現在地、避難情報、周囲の危険性などを確認し、その時点でより安全な場所へ移動する、あるいは危険な移動を避けることが基本になります。
仕事についても、「災害でも必ず出勤する」と一律に考えるのは適切ではありません。国土交通省は計画運休時のテレワークや時差出勤を推進しており、内閣府の企業防災でも従業員や顧客の安全を第一とする考え方が示されています。
一方、医療やインフラなど災害時にも必要な仕事があります。そのため社会全体で単純に「災害の日は仕事を禁止する」とするより、危険な出勤を当然としないこと、不要不急の移動を減らすこと、必要な業務については安全に継続できる体制を平常時から整えておくことが重要です。
個人の判断だけに任せるのではなく、企業が災害時の休業、自宅待機、テレワーク、時差出勤などの基準をあらかじめ明確にしておけば、「会社へ行くべきか、それとも避難すべきか」という迷いを減らせます。災害が迫ってから考えるのではなく、平常時に働き方と防災をセットで準備しておくことが、実際の「命を守る行動」につながります。


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