福島第一原発の廃炉費用は電気料金に上乗せされている?全国負担の「賠償負担金」「廃炉円滑化負担金」との違いを解説

原子力災害

電気料金には発電や燃料の費用だけでなく、送配電網を利用するための「託送料金」に相当する費用も含まれています。そして現在の託送料金には、原子力政策に関係する「賠償負担金相当額」や「廃炉円滑化負担金相当額」が含まれる地域があります。

この仕組みだけを見ると、「福島第一原子力発電所の事故処理や廃炉費用を、東京電力管内以外の利用者まで電気料金で負担している」と理解したくなります。しかし制度を詳しく確認すると、全国的に回収されている賠償負担金、一般の原子力発電所を対象とする廃炉円滑化負担金、福島第一原発そのものの廃炉資金は、それぞれ別の仕組みです。

名称が似ているうえに、いずれも原子力発電に関係する費用なので非常に分かりにくいところです。そこで、資源エネルギー庁などが公表している制度資料を基に、電気料金と福島第一原発の費用の関係を整理します。

電気料金に含まれる「託送料金」とは

家庭が電力会社へ支払う電気料金には、発電した電気を家庭まで届ける送配電ネットワークの利用に必要な費用が含まれています。これに相当するのが託送料金です。

資源エネルギー庁は託送料金の構成を公開しており、その中には送配電設備の維持・運用などに必要な費用だけでなく、制度上認められた「賠償負担金相当額」「廃炉円滑化負担金相当額」なども含まれます。[参照:資源エネルギー庁「料金設定の仕組みとは?」]

つまり「原子力に関係する費用が電気料金に含まれている」という説明そのものは間違いではありません。ただし、そのすべてを「福島第一原発の廃炉費用」と呼んでしまうと、制度の実態とは異なる説明になってしまいます。

全国的に負担しているのは福島第一原発事故の「賠償への備え」の過去分

まず重要なのが「賠償負担金」です。これは福島第一原発事故が発生する以前から、原子力事故の賠償に備えて本来確保されているべきだった資金について、事故前に十分な料金原価への算入が行われていなかったという考え方から設けられた制度です。

資源エネルギー庁によれば、その金額は総額約2.4兆円とされ、おおむね40年程度をかけて託送料金を通じて回収する仕組みになっています。制度改正は2017年に行われ、2020年4月から施行されています。[参照:資源エネルギー庁 エネルギー白書]

ここでポイントになるのは、これは福島第一原発を解体するための廃炉工事費そのものではなく、原子力損害の「賠償への備え」の不足分だということです。

賠償負担金は東京電力エリア以外でも徴収されている

賠償負担金については、東京電力管内だけの制度ではありません。資源エネルギー庁が公表している託送料金平均単価を見ると、北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州の各エリアで賠償負担金相当額が設定されています。

2026年2月時点の低圧供給における賠償負担金相当額は、北海道0.04円/kWh、東北0.06円/kWh、東京0.09円/kWh、中部0.06円/kWh、北陸0.05円/kWh、関西0.13円/kWh、中国0.04円/kWh、四国0.10円/kWh、九州0.08円/kWhと公表されています。沖縄については「-」となっています。[参照:資源エネルギー庁「各一般送配電事業者の託送料金平均単価等」]

例えば月300kWhを使用する家庭なら、0.09円/kWhの場合は単純計算で月27円、0.13円/kWhなら月39円が賠償負担金相当額になります。実際の料金表示や契約条件は小売電気事業者によって異なるため、これはあくまで単価を使った計算例です。

「廃炉円滑化負担金」も電気料金に含まれる

もう一つ混同されやすいのが「廃炉円滑化負担金」です。名前に「廃炉」と入っているため、福島第一原発事故の廃炉費用だと思われやすい制度です。

しかし資源エネルギー庁によれば、廃炉円滑化負担金は、原子力発電所を円滑に廃炉できるようにするための会計制度に由来する費用です。原発を予定より早く廃炉にすると、設備の残存簿価などが一度に損失として発生し、それが廃炉判断の妨げになる可能性があります。その費用を分割して回収できるようにした仕組みです。

2013年に廃炉会計制度が設けられ、その後の電力小売全面自由化を踏まえ、2020年以降も制度を継続できるよう託送料金を利用して回収できる仕組みが整備されました。[参照:電力・ガス取引監視等委員会「廃炉円滑化負担金の概要」]

廃炉円滑化負担金=福島第一原発の廃炉費用ではない

ここが最も重要な区別です。電気料金の内訳に「廃炉円滑化負担金」と書かれていたとしても、それをそのまま「福島第一原発事故の廃炉費用」と読み替えることはできません。

廃炉円滑化負担金は、原発依存度を低減する政策の下で原子力発電所の廃炉を円滑に進めるために設けられた制度です。実際、資源エネルギー庁の資料では複数の原子力発電事業者による廃炉が制度の対象として説明されています。

したがって、「全国の電気料金に廃炉関係の費用が入っている」ことと、「福島第一原発の廃炉工事費を全国の利用者から直接徴収している」ことは同じ意味ではありません。

では福島第一原発そのものの廃炉費用は誰が負担するのか

福島第一原発の廃炉について、政府は東京電力が必要な資金を負担することを原則としています。資源エネルギー庁のエネルギー白書でも、福島第一原発の廃炉に必要な資金については東京電力が負担し、東京電力グループ全体で捻出するという考え方が説明されています。

その資金を確実に廃炉へ回すために「廃炉等積立金制度」が設けられています。原子力損害賠償・廃炉等支援機構が毎年度、東京電力ホールディングスが積み立てる金額を定め、主務大臣の認可を受ける仕組みです。2025年度分として認可された廃炉等積立金は約2,607.6億円でした。[参照:経済産業省「一般負担金年度総額及び廃炉等積立金の額」]

積み立てた資金は自由に使えるわけではなく、廃炉作業の計画に基づいて原子力損害賠償・廃炉等支援機構と東京電力が取戻し計画を作成し、承認を受けたうえで廃炉に使用する制度になっています。

東京電力管内の託送料金と福島第一原発の廃炉には関係がある

一方で、「福島第一の廃炉費用は電気料金と完全に無関係」と説明するのも正確ではありません。東京電力グループには特殊な制度があります。

東京電力は事故後に持株会社、送配電、小売などへ分社化されました。その中で東京電力パワーグリッドの経営合理化によって生まれた資金を福島第一原発の廃炉に確実に充てるため、東京電力パワーグリッドが東京電力ホールディングスへ支払う「廃炉等負担金」を費用として扱える制度が整備されています。

資源エネルギー庁によれば、2023年度からのレベニューキャップ制度でも、過去の廃炉費用相当分の実績値を踏まえ、必要な金額を東京電力パワーグリッドの収入上限へ算入することが可能になっています。同時に、廃炉費用の捻出を理由として託送料金の値下げ機会が不当に失われないよう、確認制度も設けられています。[参照:資源エネルギー庁 エネルギー白書2024]

全国負担と東京電力エリアの仕組みを分けると理解しやすい

制度が複雑なので、主な費用を整理すると次のようになります。

項目 何のための費用か 福島第一との関係 負担・資金確保の考え方
賠償負担金 事故前から確保しておくべきだった原子力損害賠償への備えの不足分 福島第一事故の賠償制度と直接関係 複数地域の託送料金を通じて回収
廃炉円滑化負担金 原子力発電所を円滑に廃炉するための会計上の費用 福島第一の事故炉廃炉費そのものではない 対象地域の託送料金を通じて回収
福島第一の廃炉等積立金 燃料デブリ取り出しなど福島第一の廃炉作業 直接関係 東京電力が積み立てることが基本
東京電力PGの廃炉等負担金 東電グループの合理化分などを福島第一の廃炉へ充てる 直接関係 東京電力グループ内の制度として確保

このように分ければ、「福島第一原発関連費用が全国の電気利用者に全く及んでいない」という説明も、「福島第一原発の廃炉費用そのものを全国民が電気料金で直接負担している」という説明も、どちらも単純化しすぎていることが分かります。

2026年時点で地域ごとの負担額には差がある

原子力関連の託送料金負担は全国一律ではありません。2026年2月時点の資源エネルギー庁公表値では、低圧の廃炉円滑化負担金相当額は東北0.10円/kWh、東京0.07円/kWh、中部0.01円/kWh未満、北陸0.01円/kWh未満、関西0.11円/kWh、中国0.01円/kWh、四国0.25円/kWh、九州0.08円/kWhとなっています。北海道と沖縄は「-」です。

一方、賠償負担金相当額は北海道から九州まで複数地域に設定されています。この違いからも、賠償負担金と廃炉円滑化負担金が別制度であることが分かります。[参照:資源エネルギー庁 託送料金平均単価]

なお、単価や制度は今後変更される可能性があります。具体的な負担額を確認するときは、資源エネルギー庁が公開する最新の託送料金情報や契約している小売電気事業者の料金説明を確認することが重要です。

なぜこれほど分かりにくいのか

混乱しやすい最大の理由は、「賠償」「廃炉円滑化」「廃炉等積立金」「廃炉等負担金」という似た名称の制度が並存していることです。

さらに電力自由化後は、発電会社、小売会社、一般送配電事業者の役割が分かれています。消費者が小売電気事業者へ支払う電気料金の中には送配電ネットワーク利用に相当するコストが含まれているため、制度上は託送料金で回収される費用が最終的には需要家の負担につながります。

原子力関連費用について議論するときは、単に「電気料金に原発費用が上乗せされているか」ではなく、何という制度の、何のための費用なのかまで確認する必要があります。

まとめ:全国の電気料金に原子力関連費用は含まれるが、福島第一の廃炉費用とは区別が必要

電気料金には託送料金相当のコストが含まれ、その託送料金には地域によって「賠償負担金相当額」と「廃炉円滑化負担金相当額」が含まれています。特に賠償負担金は、福島第一原発事故以前から確保されているべきだった約2.4兆円の賠償への備えを、おおむね40年程度で回収する制度です。

一方、「廃炉円滑化負担金」は福島第一原発の事故炉を解体するためだけの費用ではありません。原発依存度を低減していく中で、原子力事業者が廃炉を円滑に実施できるようにする会計制度に基づく費用です。

福島第一原発そのものの廃炉資金については、東京電力が負担することを基本として廃炉等積立金を確保する制度が設けられています。また東京電力エリアでは、東京電力パワーグリッドの合理化分などを福島第一の廃炉に充てる「廃炉等負担金」という別の仕組みも存在します。

したがって、「東京電力管内以外でも福島事故に関連する費用を電気料金を通じて負担しているのか」という点では、賠償負担金については複数地域で負担しているといえます。しかし「福島第一原発の廃炉費用そのものが、廃炉円滑化負担金として全国の電気料金に一律上乗せされている」という理解は正確ではありません。原子力関連の負担を評価するときは、この二つを区別することが重要です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました