大阪・京都・奈良・滋賀・兵庫などを含む近畿地方には多数の活断層が分布しており、とりわけ「近畿三角帯」と呼ばれる区域は、日本国内でも活断層が集中的に分布する地域として知られています。地震調査研究推進本部は2026年8月28日に「近畿地域の活断層の長期評価(第一版)」を公表し、近畿三角帯について、活断層でマグニチュード6.8以上の地震が今後30年以内に発生する確率を40~60%と評価しました。[参照:地震調査研究推進本部「近畿地域の活断層の地域評価」]
数字だけを見ると非常に高く感じますが、この40~60%は「特定の断層が40~60%の確率で動く」「大阪や京都で30年以内に必ず巨大地震が起きる」という意味ではありません。また、南海トラフ地震と近畿三角帯の地震が必ず連動することを示す数字でもありません。
地震の長期評価を理解するときには、発生確率が何を対象として計算されたものなのか、個別断層の確率と地域全体の確率を区別することが重要です。ここでは地震調査研究推進本部が公表した最新評価を基礎に、近畿三角帯とは何なのか、40~60%という数字をどう考えるべきなのか、南海トラフ地震との関係まで整理します。
- 近畿三角帯とはどのような地域なのか
- 近畿三角帯では38の活断層が評価対象になった
- 「今後30年以内40~60%」は何を意味するのか
- 「Sランクの断層が多い」と「40~60%」も別の話
- M6.8は「小さい地震」という意味ではない
- 南海トラフ地震と近畿三角帯の地震は同じものではない
- 「南海トラフと連動して近畿巨大地震」という表現には注意
- 30年確率が高くても「いつ起きるか」は分からない
- 個別の活断層の確率が低くても安心できない理由
- 近畿三角帯で現実的に警戒すべきこと
- 南海トラフ地震と内陸地震の両方に備える
- 自宅の危険度は「40~60%」だけでは判断できない
- まとめ:近畿三角帯の40~60%は重要だが「巨大地震のカウントダウン」ではない
近畿三角帯とはどのような地域なのか
「近畿三角帯」は単一の断層の名称ではありません。近畿地域の活断層を評価するにあたり、地震調査研究推進本部は近畿地域を「近畿北西部」「近畿三角帯」「紀伊半島」という3区域に区分しています。
2026年8月公表の評価資料では、近畿三角帯について「国内でも活断層が集中的に分布しており、それらの活動度も高い」という特徴が示されています。したがって、近畿三角帯の地震リスクが注目されること自体には科学的な根拠があります。[参照:近畿地域の活断層の長期評価(第一版)のポイント]
一方、「近畿三角帯巨大地震」という名称の一つの巨大地震が想定され、それに向けてカウントダウンが進んでいる、と理解するのは適切ではありません。区域内には多数の異なる活断層があり、それぞれ位置、長さ、活動履歴、想定される地震規模が異なります。
近畿三角帯では38の活断層が評価対象になった
今回の地域評価では、近畿北西部7、近畿三角帯38、紀伊半島1の活断層が評価されています。近畿地域全体では45断層です。中央構造線断層帯は区域境界に位置するため重複して扱われています。[参照:地震調査研究推進本部]
近畿三角帯の評価対象には、有馬-高槻断層帯、六甲・淡路島断層帯、大阪湾断層帯、上町断層帯、生駒断層帯、京都盆地-奈良盆地断層帯、琵琶湖西岸断層帯、三方断層帯・花折断層帯など、近畿地方でよく知られる活断層が含まれています。
さらに柳ヶ瀬-関ヶ原断層帯・浦底-柳ヶ瀬山断層帯、池田山断層、養老-桑名-四日市断層帯、高茶屋断層帯、伊勢湾断層帯なども評価対象です。つまり、近畿三角帯のリスクは一つの断層だけから生じているのではなく、多数の活断層が存在する地域全体を総合して考える必要があります。
「今後30年以内40~60%」は何を意味するのか
地震調査研究推進本部が示した40~60%とは、近畿三角帯の評価対象となる活断層でM6.8以上の地震が今後30年以内に発生する確率です。近畿地域全域では50~60%、近畿北西部では30%、紀伊半島では7%と評価されています。
| 評価区域 | M6.8以上の地震が今後30年以内に発生する確率 | 評価された活断層数 |
|---|---|---|
| 近畿地域全域 | 50~60% | 45断層 |
| 近畿北西部 | 30% | 7断層 |
| 近畿三角帯 | 40~60% | 38断層 |
| 紀伊半島 | 7% | 1断層 |
ここで特に注意したいのは、40~60%という値が「近畿三角帯にある各断層の発生確率」を意味しない点です。個々の活断層について求められる発生確率と、区域内の多数の活断層を総合した地域評価は別の数字です。
例えば、ある一つの断層の30年確率が低くても、地域内に地震を起こし得る断層が多数あれば、「その地域のどこかの評価対象活断層で地震が起きる確率」は高くなります。近畿三角帯の40~60%は、この地域全体としての地震ハザードを見るための数字と考えると分かりやすいでしょう。
「Sランクの断層が多い」と「40~60%」も別の話
活断層の長期評価では、個々の断層について将来の地震発生確率に応じたランクが示されることがあります。一方、40~60%という値は近畿三角帯という区域全体について算出された地域評価です。
そのため「Sランクの断層があるから近畿三角帯が40~60%になった」と単純に一対一で結び付けるのは正確ではありません。評価では主要活断層帯だけでなく、従来より短い活断層や沿岸海域まで対象を広げています。
地震調査研究推進本部が地域評価を導入した背景には、M7未満の地震や主要活断層帯以外で発生する地震でも大きな被害が生じ得るという事情があります。地域の危険性を見るには、有名な断層一つだけではなく周囲を含めた総合評価が必要なのです。
M6.8は「小さい地震」という意味ではない
「巨大地震」という言葉からM8~9級を想像すると、M6.8は小さく感じるかもしれません。しかし内陸の浅い場所で発生するM6~7級の地震は、震源に近い都市に非常に強い揺れをもたらすことがあります。
代表的な例が1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)です。近畿地方では人口や建物、鉄道、高速道路、ライフラインなどが密集しているため、震源の位置によっては地震の規模だけでは測れない大きな社会的影響が生じます。
したがって近畿三角帯について重要なのは「巨大地震という名称になるか」ではなく、都市の近くで強い揺れを生じさせる内陸地震が発生し得るという点です。
南海トラフ地震と近畿三角帯の地震は同じものではない
南海トラフで発生する巨大地震と、近畿三角帯の活断層で発生する地震は、まず地震のタイプを分けて考える必要があります。南海トラフの巨大地震は主としてプレート境界で発生する海溝型地震であるのに対し、近畿三角帯の地域評価は陸域の活断層とその沿岸海域延長部で発生する地震を対象としています。
したがって「南海トラフ地震=近畿三角帯の地震」ではありません。また、今回公表された近畿三角帯の40~60%という確率は、南海トラフ地震との連動確率を示した数字でもありません。
大地震による地殻応力の変化が周辺の地震活動に影響すること自体は地震学上研究されているテーマですが、そこから「南海トラフ巨大地震が発生すると特定の近畿の活断層が必ず続けて動く」と現在の科学で予測することはできません。両者の危険性は、それぞれの公的な長期評価に基づいて備えることが重要です。
「南海トラフと連動して近畿巨大地震」という表現には注意
テレビ番組、動画、SNSなどでは「連動」「カウントダウン」「次に危ない」といった強い表現が使われることがあります。しかし、地震については科学的に確認されている事実と、可能性についての仮説を分けて読む必要があります。
2026年8月28日の地震調査研究推進本部の資料で公式に示された重要な情報は、近畿三角帯では38の活断層を評価し、そこでM6.8以上の地震が今後30年以内に発生する確率を40~60%と評価したことです。
一方、この数字から「南海トラフ地震と連動する」「発生時期が目前まで迫っている」といった具体的なシナリオまで導くことはできません。長期確率は地震発生日を予報するカウントダウンではないからです。
30年確率が高くても「いつ起きるか」は分からない
「今後30年間」という表現を見ると、30年後に近づくほど危険になるように感じることがあります。しかし長期評価は「あと何年で発生する」という時計ではありません。
地震は明日起きる可能性もあれば、数十年間発生しない可能性もあります。現在の科学では、活断層地震について「○月○日にこの断層が動く」といった日時を指定した予知はできません。
そのため40~60%という数字から必要以上に恐怖を感じるより、「発生しても不思議ではない地域なので、平時から対策しておく必要がある」と受け止めるのが実用的です。
個別の活断層の確率が低くても安心できない理由
活断層の情報を調べると、「30年以内の発生確率が数%以下」とされている断層もあります。その数字だけを見ると、ほとんど起きないように感じるかもしれません。
しかし日本の内陸地震では、事前の長期確率だけで個人が安全・危険を判断するのは適切ではありません。地域評価が導入された理由の一つも、主要活断層帯以外やM7未満の地震によって被害が発生してきたためです。
近畿三角帯のように多数の活断層が存在する地域では、「自宅の最寄りの断層の確率」だけを見るのではなく、周辺地域全体の地震ハザードを考えることが大切です。
近畿三角帯で現実的に警戒すべきこと
近畿三角帯の地震リスクを知ったとき、最も有効なのは地震の発生日を予想することではなく、自分の生活圏で何が起こるかを具体的に考えることです。
例えば大阪・京都・神戸などの都市部では、強震による家具転倒、古い住宅の損壊、火災、エレベーター停止、鉄道の長時間運休、道路渋滞、停電、断水、通信障害などが問題になります。沿岸部では地震の発生場所によって津波についても公的情報を確認する必要があります。
特に自宅の耐震性、家具固定、寝室の安全、飲料水、携帯トイレ、モバイルバッテリー、常用している生活必需品などは、地震の発生日が分からなくても今から対策できます。
南海トラフ地震と内陸地震の両方に備える
近畿地方では「南海トラフだけに備えればよい」あるいは「活断層だけ警戒すればよい」という二者択一ではありません。想定される地震の種類によって被害の出方が異なるためです。
南海トラフ地震では広域にわたる長時間の揺れや津波、物流・交通網への広域的影響などが重要になります。一方、都市直下に近い活断層地震では、比較的限られた地域に極めて強い揺れが集中する可能性があります。
備蓄や家具固定、住宅の耐震化など共通する対策も多いため、どちらが先に起きるかを予想するより、複数の地震シナリオに対応できる備えを進めるほうが合理的です。
自宅の危険度は「40~60%」だけでは判断できない
近畿三角帯全体の40~60%という値は重要な情報ですが、それだけで個々の住宅の危険度が決まるわけではありません。同じ地震でも震源断層からの距離、地盤条件、建物の構造や築年数などによって被害は大きく変化します。
例えば同じ大阪府内でも、想定する断層や地盤によって予測される揺れは異なります。自治体の地震ハザードマップや地震本部の地震動予測情報を確認すると、自宅周辺のリスクをより具体的に把握できます。
また沿岸部では津波、低地では液状化、密集市街地では地震火災など、強い揺れ以外のリスクも確認しておく必要があります。
まとめ:近畿三角帯の40~60%は重要だが「巨大地震のカウントダウン」ではない
2026年8月28日に地震調査研究推進本部が公表した「近畿地域の活断層の長期評価(第一版)」では、近畿三角帯の38の評価対象活断層について、M6.8以上の地震が今後30年以内に発生する確率は40~60%と評価されました。また近畿地域全域では50~60%です。[参照:地震調査研究推進本部「近畿地域の活断層の長期評価(第一版)のポイント」]
近畿三角帯について地震本部自身が「国内でも活断層が集中的に分布しており、それらの活動度も高い」と説明しているため、地震への備えが重要な地域であることは間違いありません。
ただし、40~60%は特定の断層の発生確率ではなく、区域内の活断層を総合した確率です。また「南海トラフ地震と近畿三角帯の巨大地震が必ず連動する」「発生までのカウントダウンが始まっている」という意味でもありません。
重要なのは地震の日時を予想することではなく、近畿では海溝型地震と活断層地震の双方が現実的な防災課題であると理解し、住宅の耐震性、家具固定、備蓄、避難場所、ハザードマップなどを確認しておくことです。強い数字を恐怖の材料にするのではなく、公的な長期評価を具体的な防災行動につなげることが、近畿三角帯の地震リスクを理解するうえで最も大切です。


コメント