愛知県の長久手市から名古屋市名東区・千種区を流れ、矢田川へ合流する香流川(かなれがわ)は、現在は護岸や河道の整備が進んでいますが、歴史的には洪水と関わりの深い河川です。
結論から整理すると、香流川を含む流域では過去の豪雨で浸水被害が発生しており、愛知県の河川整備資料には、香流川が主な被害河川として挙げられた水害で「床上浸水」が発生した記録があります。特に1971年(昭和46年)、1975年(昭和50年)、1991年(平成3年)、2000年(平成12年・東海豪雨)、2011年(平成23年)などの水害実績が確認できます。
ただし注意したいのは、公表されている水害統計の床上浸水棟数が「香流川だけで何棟」という集計ではないことです。複数の河川を含む対象区域の被害として集計されているため、特定の住宅について「過去に香流川の外水氾濫で床上浸水した」と判断するには、住所単位の浸水実績図などを別途確認する必要があります。
香流川とはどのような川?
香流川は長久手市東南部の丘陵地に源を発し、長久手市から名古屋市名東区を通り、千種区で矢田川へ合流する庄内川水系の河川です。名古屋市によると流域面積は28.3平方キロメートル、流路延長は12.5キロメートルで、このうち下流8.9キロメートルが一級河川に指定されています。[名古屋市・庄内川水系の河川]
現在の市街地だけを見ると比較的整備された都市河川に見えますが、昔から現在と同じ姿だったわけではありません。名古屋市は香流川について1989年度から護岸整備や河道掘削などの改修事業を行っていると説明しています。
名古屋市千種区の宮根学区の歴史紹介でも、香流川は周辺の田畑を潤す重要な川である一方、かつては「しばしば洪水を引起こす恐ろしい川」として地域住民の生活と深く関係していたことが記されています。[名古屋市・宮根学区の紹介]
香流川では過去に床上浸水を伴う水害が記録されている
愛知県が公表している河川整備関係資料には、水害統計を基にした「主な浸水実績」が掲載されています。その中では香流川が複数回「主な被害河川」として挙げられています。[愛知県・河川整備関係資料]
| 時期 | 災害 | 資料上の床上浸水 | 香流川の記載 |
|---|---|---|---|
| 1971年9月 | 台風29号 | 19棟 | 主な被害河川に香流川 |
| 1975年7月 | 豪雨 | 21棟 | 主な被害河川に香流川 |
| 1991年9月 | 台風18号 | 850棟 | 主な被害河川に香流川 |
| 2000年9月 | 台風14号・東海豪雨 | 175棟 | 主な被害河川に香流川 |
| 2011年9月 | 台風15号に伴う豪雨 | 133棟 | 主な被害河川に香流川 |
この表を見ると、「香流川周辺では床上まで来るような水害は一度もなかった」という理解は正確ではありません。過去の大雨では、香流川を含む流域で床上・床下浸水を伴う水害が繰り返し発生しています。
ただし床上浸水の棟数は「香流川だけ」の数字ではない
水害記録を読むときに最も注意したいのが、この点です。例えば1991年9月の台風18号について資料には床上浸水850棟とありますが、「香流川だけで850棟が床上浸水した」という意味ではありません。
同じ欄には内津川、香流川、天神川など複数の河川が被害河川として掲載されています。2000年の東海豪雨についても矢田川、守山川、香流川、天神川、瀬戸川、内津川など多数の河川が列挙されています。
したがって、過去の実績から確実にいえるのは、「香流川が被害河川として記録された豪雨で、対象地域に床上浸水が発生している」というところまでです。ある町内の床上浸水が香流川からあふれた水によるものなのか、内水氾濫なのか、別の河川の影響なのかについては、個別の水害資料で確認する必要があります。
2000年の東海豪雨では名古屋市全体が甚大な浸水被害を受けた
香流川を考えるうえで外せないのが、2000年9月11日から12日に発生した東海豪雨です。愛知県の資料によると、名古屋では総雨量567mm、最大1時間雨量97mmという記録的な雨となりました。[愛知県・東海豪雨]
名古屋市の水害記録では、この東海豪雨によって市内で死者4人、負傷者47人、床上浸水9,818棟、床下浸水21,852棟などの被害が記録されています。[名古屋市・水害の記録]
ただし、この9,818棟を香流川の被害と解釈することはできません。東海豪雨では新川の破堤をはじめ、名古屋市内外の広範囲で河川氾濫と内水氾濫が発生したためです。香流川については、愛知県の河川整備資料で東海豪雨時の「主な被害河川」の一つとして明記されています。
長久手市側でも香流川沿いに過去の浸水実績がある
香流川は名古屋市だけでなく、その上流にあたる長久手市を流れています。長久手市の都市計画関係資料では、過去に発生した台風や豪雨によって香流川沿いの地域で浸水被害が発生したことが明記されています。[長久手市・災害に関する資料]
つまり香流川の洪水リスクは名古屋市名東区・千種区だけを見ればよいものではありません。上流側の長久手市を含めた流域全体の降雨状況が川の水位に影響します。
河川の近くに住む場合には、自宅の行政区だけでなく、上流でどれほど雨が降っているかにも注意する必要があります。
現在も香流川には洪水浸水想定区域が設定されている
過去に水害があったからといって、現在も当時と全く同じ危険性というわけではありません。河川改修が進められているためです。一方で、現在の香流川にも洪水による浸水が想定される区域は存在します。
愛知県は香流川について、想定最大規模、浸水継続時間、計画規模、家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食)などの洪水浸水想定区域図を公開しています。対象地域には名古屋市と長久手市が含まれています。[愛知県・洪水浸水想定区域図]
長久手市も香流川について計画規模・想定最大規模などの洪水浸水想定区域図を案内しています。[長久手市・香流川の洪水浸水想定区域]
「床上浸水する可能性」は浸水深0.5mが一つの目安
住宅の床の高さは建物によって違うため一律ではありませんが、防災資料では浸水深0.5m以上が床上浸水相当を考える一つの目安として使われます。
長久手市の資料では、想定最大規模の洪水の場合、香流川沿いの市街地には「床上まで浸水するとされる浸水深0.5m以上」の区域があり、さらに一部では3.0m以上の浸水も想定されていると説明されています。[参照]
これは「次の豪雨で必ずその深さまで浸水する」という予報ではありません。一定の条件を設定して計算した洪水シミュレーションであり、実際の浸水範囲・水深は雨量、河川水位、堤防の状態、排水状況などによって変化します。
計画規模と想定最大規模では意味が違う
ハザードマップを見る際には「色が付いている・付いていない」だけではなく、どの規模の雨を想定した図なのか確認する必要があります。
愛知県が公開する香流川の計画規模の洪水浸水想定区域図は、毎年その規模を超える洪水が発生する確率をおおむね30分の1とした降雨条件による想定です。[愛知県・香流川洪水浸水想定区域図(計画規模)]
これとは別に、発生頻度は非常に低いものの、より極端な大雨を前提とした「想定最大規模」の図もあります。住宅購入や引っ越しなどで水害リスクを調べる場合には、両方を確認することが重要です。
河川氾濫と内水氾濫は分けて考える必要がある
「香流川の近くで浸水した」という記録があっても、必ず香流川の堤防を水が越えたり、堤防が決壊したりしたとは限りません。都市部では、大雨で下水道や排水路の能力を超えて道路や住宅地に水がたまる「内水氾濫」も起こります。
例えば短時間に非常に激しい雨が降ると、香流川自体が堤防を越えていなくても、周囲の雨水を十分に排出できず浸水する可能性があります。逆に河川から水があふれる洪水は「外水氾濫」と呼ばれます。
自宅の水害リスクを確認する場合には、河川洪水のハザードマップだけでなく、自治体が公開している内水氾濫の情報も合わせて確認すると実態に近い判断ができます。
香流川周辺の住宅を調べるなら住所単位で確認する
「香流川で過去に床上浸水があったか」という情報は地域全体を理解するうえでは有用ですが、実際に住む場所の安全性を判断するには範囲が広すぎます。同じ香流川沿いでも標高や川からの距離、土地の高低差によってリスクは大きく異なります。
例えば川から数百メートル離れていても周囲より低い土地なら水が集まりやすい場合があります。一方、川に比較的近くても地盤が高ければ浸水想定が小さい場所もあります。
住宅購入・賃貸を検討している場合は、「香流川から何メートルか」だけではなく、住所をハザードマップに入力し、想定浸水深、過去の浸水実績、地形、避難場所まで確認するのがおすすめです。
2026年には香流川の「浸水継続時間」の図も修正されている
洪水リスク情報は一度公開されたら永久に同じというものでもありません。愛知県は2026年3月17日、香流川の洪水浸水想定区域のうち「浸水継続時間」について図面の重ね合わせ過程に誤りがあり、過小に設定されていたとして修正しました。[愛知県・洪水浸水想定区域の修正]
そのため、古いハザードマップを保存している場合には、現在公開されている最新版を確認することが大切です。
特に「浸水するかどうか」だけでなく、浸水した状態がどれほど続く可能性があるかは、避難や住宅の防災対策を考えるうえで重要な情報です。
まとめ:香流川を含む流域では過去に床上浸水を伴う水害が発生している
香流川は歴史的に洪水と関係の深い河川で、名古屋市の地域史にも、かつてしばしば洪水を引き起こした川であることが記されています。また愛知県の水害統計を用いた資料では、1971年、1975年、1991年、2000年の東海豪雨、2011年など、床上浸水を伴った水害の「主な被害河川」に香流川が含まれています。
ただし、公表資料にある床上浸水棟数は複数河川をまとめた対象区域の数字であり、すべてが香流川からの氾濫による被害という意味ではありません。「香流川だけで過去に何棟が床上浸水したのか」という問いには、これらの資料だけから正確な数字を出すことはできません。
重要なのは、過去に水害があったという事実と、現在も香流川沿いの一部に洪水浸水想定区域が設定されているという点です。一方、香流川では護岸整備や河道掘削などの河川改修も行われているため、昔の水害記録だけから現在の危険度を判断するのも適切ではありません。
現在の住宅や土地について調べる場合は、愛知県・名古屋市・長久手市が公開する最新の洪水ハザード情報を使い、住所単位で「想定浸水深」「内水氾濫」「過去の浸水実績」「避難経路」を確認することが最も実用的です。


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