地震の多い日本では、原子力発電所が大きな揺れに耐えられるのかは重要な問題です。「原発を耐震構造にすればよいのでは」と考えることもありますが、実際には日本の原子力発電所は一般の建築物と同じ基準で造られているわけではなく、安全上重要な施設・設備について地震を想定した厳しい耐震設計が求められています。
一方、「耐震構造」という言葉から、巨大地震が起きても施設のどこにも損傷が生じない構造を想像すると、実際の考え方とは少し異なります。原発では地震動の想定、重要設備の耐震性、原子炉の停止、冷却、放射性物質の閉じ込め、電源確保などを組み合わせた多層的な安全対策が採られています。
この記事では、原発の耐震構造がどのようになっているのか、一般的な建物との違い、基準地震動とは何か、そして費用をかければ「どんな地震でも絶対に壊れない原発」を造れるのかまで整理して解説します。
原発はそもそも耐震構造で造られている
日本の原子力発電所では、原子炉建屋をはじめ安全上重要な施設について、地震によって安全機能が損なわれないよう耐震設計を行うことが求められています。したがって、「費用が高いから原発には耐震構造を採用していない」という理解は正確ではありません。
原子力規制委員会の新規制基準では、地震や津波などの自然現象への対策が要求されています。特に地震については、敷地周辺の活断層、過去の地震、地下構造などを調査したうえで「基準地震動」を策定し、それに対して安全上重要な施設の機能が維持できるかが審査されます。[参照]
また、原発ではすべての建物や設備を一律に同じ強度にするのではなく、原子炉を安全に停止する設備や冷却設備など、安全上の重要度を考慮して耐震性を確保するという考え方が採られています。
「基準地震動」とは何か
原発の耐震性を理解するときに重要な言葉が基準地震動です。これは、その原発の敷地で想定する地震による揺れを、安全設計上の基準として定めたものです。
単に「震度7まで耐えられる」といった形で設計するわけではありません。震度は人が感じる揺れや建物への影響を地域ごとに表す尺度ですが、原発の耐震設計では地震動の加速度、周期特性などを考慮します。同じ最大加速度でも揺れの周期などが異なれば、設備への影響も変わるためです。
例えば、敷地周辺にどのような活断層が存在するのか、その断層によってどの程度の地震が発生し得るのかなどを調べます。さらに、震源を特定して策定する地震動だけでなく、震源と活断層を事前に結び付けることが難しい地震についても考慮して基準地震動を策定します。
なぜ原子炉建屋は頑丈な構造になっているのか
原子炉建屋などの重要施設には鉄筋コンクリートなどが用いられ、一般的な住宅とは大きく異なる頑丈な構造になっています。また、重要施設は地震による影響を考慮した地盤に設置することが基本となります。
ただし、原発で守る対象は建物だけではありません。原子炉圧力容器、格納容器、配管、ポンプ、非常用電源、電気設備など、多数の機器が組み合わさって原子炉の安全を維持しています。
例えば建物自体が倒壊しなかったとしても、冷却に必要な配管や電源設備が同時に機能を失えば重大な問題につながります。そのため原発の地震対策では、「建物が倒れないこと」だけではなく、地震後も安全上必要な機能を確保できることが重要になります。
原発の安全で重要な「止める・冷やす・閉じ込める」
原子力発電所の安全を考えるうえでよく使われるのが、「止める」「冷やす」「閉じ込める」という考え方です。異常が発生した際にはまず核分裂の連鎖反応を止め、その後も原子炉内で発生する崩壊熱を取り除き、放射性物質が外部へ大量に放出されないようにする必要があります。
地震発生時には一定以上の揺れを検知すると原子炉を自動停止させる仕組みがあります。しかし、原子炉を停止させればその瞬間から冷却が不要になるわけではありません。核分裂反応を止めたあとにも燃料から崩壊熱が発生するため、継続的な冷却が必要です。
そのため、耐震性の確保に加えて、外部電源を失った場合の非常用電源、代替注水設備など複数の手段を準備することが重要になります。これは、一つの設備が故障しても直ちに重大事故へ進まないようにする「深層防護」の考え方につながります。
福島第一原発事故は「耐震構造ではなかった」から起きたのか
2011年の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故について、「原発が地震に耐えられなかった事故」と単純化するのは正確ではありません。事故では地震後に運転中だった原子炉が自動停止しましたが、その後到達した津波によって電源設備などが被害を受け、原子炉を長時間冷却する機能を失ったことが重大事故につながりました。
この事故を踏まえ、日本では原子力規制の仕組みが改められ、2013年に新規制基準が施行されました。地震・津波への対策だけでなく、重大事故が発生した場合を想定した対策や、自然現象などへの対応も強化されています。[参照]
この経験が示した重要な点は、建物を頑丈にするだけでは原発の安全性を確保できないことです。地震に耐えたとしても、津波、浸水、火災、電源喪失などが重なったときにも原子炉を安全な状態へ移行できる仕組みが必要になります。
お金をかければ「絶対に壊れない原発」は造れる?
耐震性を高めるには当然コストがかかります。より強固な構造、設備の補強、非常用設備の追加、調査・解析などには多額の費用が必要です。しかし、原発が耐震構造になっていない理由が「高額だから」ということではありません。そもそも安全上重要な施設には高い耐震性が要求されています。
一方、工学では「どのような規模・性質の地震が起きても絶対に損傷しない」と無条件に保証することはできません。自然現象には不確実性があり、将来発生する地震の震源、規模、地震動を完全に予測することもできないためです。
そこで現実の安全設計では、科学的知見に基づいて厳しい自然現象を想定して耐える設計を行うとともに、それでも設備の故障や想定を超える事態が発生する可能性を考え、別の設備や手段によって事故の進展を防ぐという多重・多層的な対策が重要になります。
「耐震」と「免震」は同じではない
建築物の地震対策では「耐震」「制震」「免震」という言葉があります。耐震は構造そのものの強度などによって地震に耐える考え方、制震は装置などによって揺れのエネルギーを吸収する考え方、免震は建物へ伝わる揺れを低減する考え方です。
原子力施設でも免震技術に関する研究や検討は行われていますが、「原発を丸ごと免震構造にすればすべて解決する」という単純な問題ではありません。原発には大型構造物、配管、電気設備などが多数存在し、それぞれの安全性をシステム全体として評価する必要があります。
重要なのは耐震か免震かという名称ではなく、想定される地震動に対して安全機能を維持できること、さらに想定を超える事象が起きた場合にも重大事故へ進展するリスクを抑えることです。
原発では地震だけを考えればよいわけではない
日本の原発にとって重要な自然災害は地震だけではありません。津波、火山、竜巻、森林火災などについても、それぞれ施設への影響を考える必要があります。複数の自然現象が関連して発生する可能性も考慮する必要があります。
特に沿岸部にある原発では津波対策が重要です。防潮堤などによって浸水を防ぐ対策に加え、万一設備が使用できなくなった場合にも代替手段で原子炉を冷却できるようにすることが求められます。
つまり原子力発電所の安全性は、「建物の耐震強度」という一つの数字だけで判断できません。地震発生後にも電源・冷却・通信などが機能するか、複数設備が同時に失われた場合に別の方法が残されているかまで含めて評価する必要があります。
まとめ|原発は耐震設計されているが「頑丈な建物だけ」で安全になるわけではない
日本の原子力発電所は、耐震構造にできないから通常の建物と同程度の構造で造られているわけではありません。原子炉建屋など安全上重要な施設・設備には、原発の敷地ごとに策定される基準地震動などを踏まえた厳しい耐震性が要求されています。
ただし、原発の安全で重要なのは建物が地震で倒れないことだけではありません。地震後に原子炉を停止し、燃料を冷却し続け、放射性物質を閉じ込める必要があります。そのため、配管、ポンプ、電源、冷却設備などを含めたシステム全体の安全性が重要です。
さらに福島第一原発事故の経験が示したように、地震とともに津波や電源喪失など複数の問題が重なる可能性も考えなければなりません。「原発を耐震構造にすれば安全」という一段階の対策ではなく、耐震設計に加えて、想定外の故障や自然災害が重なった場合にも重大事故を防ぐ多層的な対策を用意することが、現在の原子力安全の基本的な考え方です。


コメント