ネパールの洪水はなぜ大規模化した?2024年9月の記録的豪雨・地形・都市化・気候変動から原因を詳しく解説

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ネパールではモンスーン期を中心に洪水や土砂災害が繰り返されていますが、特に大きな被害となったのが2024年9月26日から28日にかけて発生した豪雨災害です。首都カトマンズを含む中部・東部を中心に極端な雨が降り、河川氾濫、鉄砲水、地滑りがほぼ同時に発生しました。

この災害を理解するうえで重要なのは、単純に雨がたくさん降ったから洪水になったという一つの原因だけで考えないことです。異常に強いモンスーン降雨、すでに水を含んでいた地面、急峻なヒマラヤの地形、カトマンズ盆地の排水条件、急速な都市化や氾濫原への建築など、複数の条件が重なって被害を拡大させました。

さらに長期的な背景として、人為的な気候変動が極端な降雨を強めている可能性も研究されています。ここでは2024年9月の洪水を中心に、なぜネパールでこれほど大きな被害が発生したのかを順番に整理します。

2024年9月のネパールでは何が起きたのか

2024年9月26~28日、ネパールでは極端な豪雨が発生し、カトマンズ盆地をはじめ広い地域で洪水と地滑りが相次ぎました。ネパール政府の国家災害リスク削減管理庁(NDRRMA)が10月1日に公表した状況報告では、この時点で224人の死亡、158人の負傷、24人の行方不明が報告されています。

その後集計は更新され、世界気象機関(WMO)の「State of the Climate in Asia 2024」では、この災害で少なくとも246人が死亡したとされています。数字が資料によって異なるのは、発表された時点が異なるためです。

被害は人的被害だけではありません。道路や橋、住宅、学校、医療施設、水力発電施設、農地、通信設備など幅広いインフラが被災しました。山岳国で道路が寸断されると救助や物資輸送そのものが難しくなるため、洪水と地滑りの二次的な影響も非常に大きくなります。

最大の直接原因は異例の豪雨だった

洪水を直接引き起こした最大の要因は、9月末としては極めて激しい降雨でした。国際山岳総合開発センター(ICIMOD)によると、カトマンズ盆地の複数地点では3日弱で340mmを超える雨が降り、Kumaltarでは381.2mm、Godavariでは346.6mmが観測されました。[参照:ICIMOD]

WMOの報告によると、ネパール国内222の雨量観測地点のうち77地点で大雨が観測され、一部地域では24時間で200mmを超えました。カトマンズのトリブバン国際空港観測地点では239.7mmとなり、同地点として記録的な雨量となりました。

これだけ大量の水が短時間で地表へ供給されると、地面へ浸透できる量を上回った雨水が一気に河川や低地へ流れ込みます。その結果、通常の洪水だけでなく、流れが急激に増大する鉄砲水や斜面崩壊も起こりやすくなります。

なぜこれほど強い雨が降ったのか

ICIMODは、この豪雨についてベンガル湾の低気圧系と、通常より北側に位置したモンスーントラフが重要な気象要因だったと説明しています。

モンスーントラフとは、大まかにいえば低気圧が連なる帯状の領域です。その位置によって湿った空気が集まりやすい場所が変化します。2024年9月末には、大量の水蒸気を含んだ空気がネパール方面へ供給されやすい気象条件になりました。

そこにネパール特有の山岳地形が加わります。湿った空気がヒマラヤ山脈などの斜面にぶつかって上昇すると、空気が冷やされて水蒸気が凝結し、強い雨を降らせます。つまり、大量の水蒸気を供給する気象条件と、空気を持ち上げる巨大な山岳地形が組み合わさったことが重要です。

すでに地面が水を多く含んでいたことも被害を拡大した

9月末はネパールのモンスーンシーズンの終盤に当たります。そのため、豪雨が始まる前から地面にはかなりの水分が蓄積されていました。

ICIMODによると、この年のカトマンズではモンスーン期間の降水量が平年を25%以上上回っており、今回の豪雨以前から土壌が飽和に近い状態でした。

乾いたスポンジと水を十分吸ったスポンジを想像すると分かりやすいでしょう。乾いたスポンジなら追加の水をある程度吸収できますが、すでに水でいっぱいなら、新しく加えた水は表面から流れ出します。地面でも似た現象が起こり、雨水が地下へ浸透しにくくなることで河川へ流れ込む水が急増します。

カトマンズ盆地の地形も洪水を起こしやすくする

カトマンズは周囲を山に囲まれた盆地です。World Weather Attribution(WWA)の分析では、カトマンズと隣接するラリトプルの都市圏は谷状の地形に位置し、自然に水が排出される経路が限られているため洪水への曝露が大きいと指摘されています。[参照:World Weather Attribution]

山から流れ落ちた雨水は最終的に谷底の河川へ集まります。2024年9月にはカトマンズを流れるバグマティ川が危険水位を大幅に超え、ICIMODによるとKhokanaでは6.16mに達し、危険水位を2.16m上回りました。

これは平地で均等に雨が降る状況とは異なります。周囲の斜面から低い場所へ水が集中するため、局地的には雨量以上のインパクトを受けることがあります。

急速な都市化が洪水被害を増幅した

自然条件だけでは、なぜ都市部でこれほど被害が大きくなったのかを十分説明できません。WWAはカトマンズ盆地における急速な都市化を重要な要因として挙げています。

同分析によれば、カトマンズ盆地では1990~2020年に市街化された面積が386%増加したとされています。また1989~2019年には森林被覆が28%減少したとの研究結果も紹介されています。

森林や土の地面なら雨の一部を地中へ浸透させられます。しかし道路、建物、駐車場などで地表が覆われると雨水が浸透しにくくなり、短時間で排水路や河川へ流れ込みます。これを一般に表面流出の増加として捉えることができます。

川の近くや氾濫原への開発も被害を大きくする

都市化にはもう一つ問題があります。それが、もともと洪水時に水が広がる場所だった氾濫原や河川周辺への建築です。

氾濫原は洪水時に川からあふれた水を一時的に受け止める役割があります。そこを建物や道路で埋めてしまうと、水が広がれる空間が減少します。同時に、洪水が起きたとき被害を受ける住宅・店舗・道路などの資産そのものも増えます。

ICIMODも2024年9月の災害について、無計画な建築、特に氾濫原への建設によって保水・排水に利用できる空間が不足していることを、被害増大の重要な要因として指摘しています。

洪水と地滑りが同時発生するのがネパールの怖さ

ネパールの災害では、洪水だけを考えることができません。非常に急な斜面が多いため、大雨によって地盤が水を含むと地滑りや土石流が発生します。

斜面が崩れると道路や橋が破壊・寸断されます。さらに大量の土砂や岩石が河川へ入ると流れを変化させたり、一時的に川をせき止めたりすることがあります。

山岳地域では一つの現象が別の現象を引き起こす「複合災害」「連鎖災害」になりやすい点が重要です。大雨→斜面崩壊→河川への土砂流入→増水・氾濫→道路寸断というように、被害が連鎖します。

気候変動は今回の豪雨に関係しているのか

ここは「すべて気候変動が原因」と単純化しないことが重要です。個々の洪水には気象条件、地形、土地利用、河川管理など多数の要因が関係するからです。

一方でWWAは2024年9月26~28日の豪雨について、人為的な気候変動の影響を分析しています。その結果、観測データからは極端な3日間降雨が約18%強くなり、発生確率が2倍強になったという推定が得られました。ただし使用する観測データによる差が大きく、この数値には相当な不確実性があるとされています。

気候モデルによる分析では、現在より約1.3℃低温だった気候と比較して、この種の豪雨の強度が約10%増し、発生確率が約70%高まったことが示されています。研究者自身が不確実性の大きさを明記しているため、具体的な数字を絶対値として扱うのではなく、温暖化によって極端な降雨が強まる方向性が示されていると理解するのが適切です。

温暖化すると大雨が強くなり得る理由

基本的な物理として、暖かい大気はより多くの水蒸気を保持できます。水蒸気は雨の原料なので、十分な水分と雨を発生させる気象条件がそろった場合、一度に降る雨を強くする方向へ作用します。

ただし「気温が上がればネパールのどこでも常に雨が増える」という意味ではありません。モンスーンの位置や大気循環、山岳地形などが絡むため、地域ごとの降水量変化には大きな複雑性があります。

それでもヒマラヤを含む高山アジアでは温暖化に伴う洪水リスクの変化が重要な研究対象となっており、ICIMODも長期的な洪水データから2000年以降に洪水発生頻度が増えていることを報告しています。

ネパールには氷河湖決壊洪水という別のリスクもある

ネパールの洪水を調べると「氷河湖決壊洪水(GLOF)」という言葉も頻繁に登場します。氷河の後退などによって形成・拡大した湖から水が急激に流出する災害です。

例えば2024年8月16日にはエベレスト地域のターメで氷河湖に関連した大規模洪水が発生しました。後のICIMODによる調査では、岩石雪崩が氷河湖へ落下して波を発生させ、湖から水が流出し、それが下流側にある別の湖の決壊につながったという複雑な連鎖が確認されています。

ただし、2024年9月末にカトマンズなどを襲った大洪水の主要因は氷河湖決壊ではなく、記録的なモンスーン豪雨です。ネパールでは原因の異なる洪水が起こるため、ニュースで見た洪水がどの事例なのかを区別する必要があります。

4月にもマナスル周辺で別タイプの洪水が発生している

さらに2024年4月21日には、マナスル氷河付近のBirendra Talで洪水が発生しています。ICIMODなどの調査では、マナスル氷河末端から大量の氷が崩落して湖へ入り、その衝撃による波で湖水が流出したことが原因とされています。[参照:ICIMOD]

興味深いのは、このケースでは湖をせき止めているモレーンが大規模に決壊した典型的なGLOFとは異なることです。氷の落下による水の押し出しが洪水を引き起こしました。

このようにネパールでは「豪雨による河川洪水」「鉄砲水」「地滑りと連動した洪水」「氷河湖からの洪水」など、異なるメカニズムの災害が存在します。

なぜネパールはもともと洪水・土砂災害に弱いのか

ネパールは南部の低地から世界最高峰級のヒマラヤまで、非常に短い水平距離の中で標高が急激に変化する国です。河川も大きな高低差を一気に流れ下ります。

さらに年間降水量の大部分がモンスーン期に集中します。つまり「急峻な山」「大量の季節降雨」「急流河川」という洪水・地滑りが起こりやすい条件をもともと持っています。

そこへ人口増加、都市化、道路建設、森林減少、河川沿いの開発、そして気候変動による極端現象の変化が加わります。自然災害としての危険性と、人間社会側の脆弱性を分けて考えることが重要です。

「自然災害だから仕方ない」だけでは説明できない

同じ量の雨が降っても、人がほとんど住んでいない氾濫原と、住宅や道路が密集している氾濫原では被害額も犠牲者数も大きく異なります。

そのため現代の防災研究では、雨量などの自然現象だけでなく「どれだけ人や資産が危険区域に存在するか」「建物やインフラがどの程度耐えられるか」という曝露と脆弱性も重視します。

2024年のネパール洪水も、極端な自然現象と都市・社会側の条件が重なって巨大災害になった典型的な事例と見ることができます。

洪水対策では排水設備だけでなく自然の保水力も重要

都市の洪水対策というと巨大な排水管や堤防をイメージしがちですが、それだけではありません。ICIMODは地下の雨水・下水設備などの人工的な「グレーインフラ」と、湿地再生や透水性舗装、レインガーデンなど自然を利用した「グリーンインフラ」の両方を強化する必要性を指摘しています。

雨をすべて瞬時に川へ流すのではなく、都市内や流域で一時的に貯留・浸透させることでピーク時の流量を減らすという考え方です。

また河川の氾濫原を無秩序に建築物で埋めない土地利用計画、地滑り危険地域での開発管理、早期警報、避難経路の整備なども重要になります。

まとめ:記録的豪雨に地形・都市化・飽和した土壌が重なって被害が巨大化した

2024年9月のネパール洪水は、一つの原因で説明できる災害ではありません。直接的な引き金となったのは、ベンガル湾の低気圧系や通常より北寄りになったモンスーントラフなどに伴う異例の豪雨でした。

さらにモンスーン終盤ですでに水分を多く含んでいた土壌、急峻なヒマラヤの地形、水が集中しやすいカトマンズ盆地、河川周辺や氾濫原への都市拡大、森林減少や舗装面の増加などが洪水と地滑りの被害を増幅しました。

そして長期的な背景として、人為的な気候変動が極端な降雨をより強く、起こりやすくしている可能性が科学的に示されています。ただし具体的な影響量には不確実性があり、「洪水のすべてが気候変動のせい」と表現するのは正確ではありません。

またネパールでは、豪雨洪水とは別に氷河湖決壊洪水や氷・岩石の崩落をきっかけとする洪水も存在します。2024年9月の大災害は主として記録的豪雨によるもの、2024年8月のターメ洪水などは氷河湖に関係するものと区別すると、ネパールで相次ぐ洪水の仕組みを理解しやすくなります。

ネパールの洪水問題は「雨が多い国だから」という単純な話ではなく、気象、ヒマラヤの地形、河川、氷河、都市化、土地利用、インフラ、そして気候変動が相互作用する複合的な災害リスクとして捉える必要があります。

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